感情の揺れ方

それでも笑っていたい

劇評

劇評:ジョン・ケアード演出『ジェーン・エア』

ジェーン・エアは引き裂かれている。その内に「分裂」を抱えている。その「分裂」を乗り越え、ジェーンがアイデンティティを手に入れる。それがこのミュージカル『ジェーン・エア』なのだ。 父と母を亡くし、孤児となったとき。伯母のミセス・リードに引き取…

劇評:眞鍋卓嗣演出『ドリームガールズ』

「名曲がひとつでもあればミュージカルは名作となる」なんて言説があるけれど、この作品にその格言は当てはまらないようだった。『ドリームガールズ』。トニー賞やグラミー賞を受賞した大ヒットミュージカルで、日本では2006年にビヨンセが主演した映画版の…

劇評:小林香演出『モダン・ミリー』

「ニューヨークに生まれることは誰でも出来るわ。でもここへ来るには、勇気と想像力がいる」 「越境」が大きなテーマのひとつとなっている『モダン・ミリー』という作品の中にあって、もっとも印象的かつ作品そのものを端的に表現しているセリフはこの一節だ…

劇評:マイケル・アーデン演出『ガイズ&ドールズ』

舞台演劇、ひいてはエンターテインメント、いやおよそすべての人々がコロナ禍の長いトンネルに苦しむ中、『ガイズ&ドールズ』もまたそのすべての公演が無事に上演されたわけではなかった。公演中止の報が日常茶飯事になったとしても、中止になった公演が自分…

2015年星組公演『ガイズ&ドールズ』──オシャレなセリフとギャンブラーの両手──

「教会に従い迷い捨てよう 祈り知らぬ者たち いざ教会へ」 ──『フォロー・ザ・フォールド』より ミュージカル『ガイズ&ドールズ』において何度も繰り返されるこの曲、この一節にある「祈り知らぬ者たち」とは誰のことだろう。すぐに思いつくのはブロードウェ…

劇評:上村聡史『ガラスの動物園』

家族とはなにか。トム・ウィングフィールドが追憶の中で示す「家族」とは牢獄であり、棺桶だった。夜な夜な家を抜け出し街を彷徨うトムが焦がれたのは、「ここではないどこか」を鮮やかに描き出す映画、あるいは死地から巧みに抜け出す脱出マジックだった。…

2007年月組公演『パリの空よりも高く』~愛すべきペテン師たちの物語~

2回目となる万国博覧会の開催を前にした花の都、パリ。万博の目玉となる建築物「エッフェル塔」の建設には賛否両論が渦巻いていたが、その中心にはある人物が──ペテン師たちが、いた。 菊田一夫の名作『花咲く港』を下敷きにした『パリの空よりも高く』は植…

劇評:ミュージカル『ドン・ジュアン』

愛とはなにか?呪いである。このミュージカル『ドン・ジュアン』が描くのはさまざまな愛、それも決して美しいものではない、理性では分かっていても離れられないような、自らを焼き尽くすかのような愛である。日本での初演は2016年に宝塚歌劇団雪組で望海風…

2019年星組公演『アルジェの男』─柴田侑宏の人間賛歌と、それに応える礼真琴─

野望に生きたジュリアン・クレールは最後に愛を知ることが出来たのかもしれない。しかし、友情を知ることは最後までなかった。 柴田侑宏作『アルジェの男』は1974年に初演、以来1983年と2011にも再演、2019年には礼真琴を主演に据え星組で上演された。物語は…

2018年花組公演『ポーの一族』~「極上の美」はそこにある~

『極上の美 永遠の命 底知れぬ恐怖 知りえぬナゾ 伝説の中に 青い霧と たそがれと闇の中に しとどおちる血と 冷たい指と ほほえみの中に 霧の森の奥深く バラ咲き乱れる苑に住む 我らは一族 時を止め 生き続ける 我らは一族 ポーの一族』 目の前の人間が本当…

ルイジ・ルキーニは「信頼できない語り手」か?~2014年花組公演ミュージカル『エリザベート─愛と死の輪舞─』より~

信頼できない語り手(しんらいできないかたりて、信用できない語り手、英語: Unreliable narrator)は、小説や映画などで物語を進める手法の一つ(叙述トリックの一種)で、語り手(ナレーター、語り部)の信頼性を著しく低いものにすることにより、読者や観…

2018年月組公演『THE LAST PARTY~S.Fitzgerald's last day~フィッツジェラルド最後の一日』─月城かなとの持つ細やかさ─

1920年代アメリカ、狂乱のジャズ・エイジ。人々は歌い、踊り、不可能など存在しないかに思われた栄光の時代。その象徴として生き、挫折を背負いながら死んでいったスコット・フィッツジェラルド。そんな彼の波乱に満ちた人生を描くのが、植田景子作・演出の…

2017年宙組公演『神々の土地~ロマノフたちの黄昏~』─サヨナラ朝夏まなと─

朝夏まなとは、本当に演技の上手い男役だったと思う。それも何と言えば良いのか、あらゆる役柄を「宝塚の男役に落とし込む」のが上手い男役だった。トップスター就任以降、『王家に捧ぐ歌』のラダメス、『シェイクスピア』のウィリアム、『エリザベート』の…

劇評:ミュージカル『シャボン玉とんだ 宇宙までとんだ』

虹色のシャボン玉 宇宙(ソラ)まで飛ばそう 虹色のシャボン玉 宇宙(ソラ)まで飛ばそう 咲妃みゆという役者の力を侮っていたかもしれない。彼女のことはもちろん宝塚時代から知っていたし、月組公演『春の雪』や『THE MERRY WIDOW』でのパフォーマンスや、雪組…

劇評:ミュージカル『天使にラブソングを~シスター・アクト~』

『天使にラブソングを』と言えば、もはや説明するまでもないかもしれない。ウーピー・ゴールドバーグ主演で1992年に公開された、あのハリウッド映画である。この作品が初めてミュージカル化されたのは2006年のアメリカで、日本での初演は山田和也を演出に迎…

劇評:『ファントム』~城田優の意欲作~

「もうひとつの『オペラ座の怪人』」と称されることもあるこのミュージカル『ファントム』はガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』を原作に、アーサー・コピットが脚本、モーリー・イェストンが作詞作曲を担当している。日本では2004年に宝塚歌劇団宙組…

劇評『けむりの軍団』

嘘が嘘を呼ぶ、嘘つきだらけの戦国に、侍がつらぬく矜持とは何か。『けむりの軍団』は39年目を迎える劇団新感線の新作公演で、主演は久々と言ってもいい古田新太。「嘘つきは、侍の始まり」というキャッチコピーが表すように、この作品では「嘘」が鍵を握る…

劇評:『ラ・マンチャの男』

『ドン・キホーテ』。スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスによる小説。誰もが知っているであろうこの作品を舞台化したのがデール・ワッサーマン。タイトルは『ラ・マンチャの男』。1965年にオフ・ブロードウェイで初演されたこの作品は、1969年に日本で…

劇評:『ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~』

亡霊とは何か…。あるいは、亡霊とは誰か?荒野をさまよう亡霊の正体は、亡霊を見る人間の正体は。アレクシス・ケイ・キャンベル作、上村聡史演出のこの作品は、1937年12月のイギリス、ヨークシャー州を舞台に、第二次大戦前夜の仄暗いイギリスと現代日本との…

劇評:ミュージカル『PIPPIN』

エンタメの洪水だ。1972年のブロードウェイで初演されたこのミュージカルは2013年にも再演され、トニー賞を受賞している。その日本初演が今回の公演で、主演は城田優、物語の鍵を握る「リーディングプレイヤー」を演じるのはクリスタル・ケイ。彼女はこの『P…

劇評:『HAMLET ハムレット』

まず初めに断っておくと、私はこのエントリーで「シェイクスピアの『HAMLET』の批評」をするつもりはない。私が観たのはあくまでもサイモン・ゴドウィン演出、岡田将生主演の『HAMLET』であり、突き詰めれば「シェイクスピアの『HAMLET』」ではないからだ。…

劇評:ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』

4月の頭に、梅田芸術劇場で『ロミオ&ジュリエット』を観劇した。このミュージカルは2001年、作曲家ジェラール・プレスギュルヴィックの手によって誕生し、日本では2010年に小池修一郎の潤色・演出で宝塚歌劇団が初演を行った。それ以降も2011年、2012年、20…

劇評:ミュージカル『笑う男』

貴族と貧民。公爵と道化。楽園と地獄。現実的な男と夢見がちな男。トサカ頭とぶたっ鼻。あるいは、笑う男と…。 ヴィクトル・ユゴー原作、脚本ロバート・ヨハンソン、作曲フランク・ワイルドホーン、演出上田一豪によるこの物語を貫くのは、調和としての円、…

劇評:『唐版 風の又三郎』

3月の上旬に、森ノ宮ピロティホールで『唐版 風の又三郎』を観劇した。しかし、私にはこの作品を評価することが出来ない。それは例えばアマゾンで買った商品に星をひとつだけつけるとか、そういうことではない。文字通り評価が出来ないのだ。何と言えば良い…

劇評:ミュージカル『キューティ・ブロンド』

もう2ヶ月ほど前になるが、梅田芸術劇場でミュージカル『キューティ・ブロンド』を観劇した。もともとはハリウッド映画をミュージカル化したもので、日本での初演は2017年。その時からかなり評判が良く、もし再演があるなら観に行きたいと思っていた作品であ…

劇評:劇団四季『オペラ座の怪人』

「劇団四季の『オペラ座の怪人』はすごいらしい」というキャッチコピーでお馴染みの作品を鑑賞してきました。名曲がひとつでもあればそのミュージカルは名作になるという言葉がありますが、この『オペラ座』は名曲にあふれていて、観た人の感情を揺さぶる力…

劇評:『笑の大学』 脚本三谷幸喜 ※軽いネタバレあり

大学で取っている講義の一環で三谷幸喜が脚本の『笑いの大学』を鑑賞しました。映画版やら舞台版やらあるらしいんですが、僕が観たのは舞台版です。とても良い作品でした。劇評を書いてみたのでよろしければ読んでみてください。 面白い。本当に面白い作品だ…