感情の揺れ方

それでも笑っていたい

劇評:劇団四季『オペラ座の怪人』

 「劇団四季の『オペラ座の怪人』はすごいらしい」というキャッチコピーでお馴染みの作品を鑑賞してきました。名曲がひとつでもあればそのミュージカルは名作になるという言葉がありますが、この『オペラ座』は名曲にあふれていて、観た人の感情を揺さぶる力を持っています。歌というか、音楽の強さというのは演劇において重要な要素になっているなぁと改めて思うことになりました。『ファントム』との違いについてもすこし触れていきます。以下の文章では作品の内容についても言及していますので、ネタバレなどを気にされる方はご遠慮ください。

 

 さてストーリーですが、パリはオペラ座の地下に身を潜める怪人と美しい歌声を持つクリスティーヌ・ダーエとの間に起こる悲哀をめぐって進んでいきます。幕が上がると、オペラ座の舞台上ではオークションが行われていて、過去作品のポスターや舞台装置が競りに出されています。ある老子爵(この人物は、以後登場するあるキャラクターだと思われます)がオルゴールを購入するなど、競売はつつがなく進んで行き、主催者はある目玉商品を紹介します。それはかつてパリ・オペラ座で使われていたシャンデリア。そのシャンデリアにはあるいわくがあり――

 そこで舞台は半世紀前のパリへと移行します。オペラ座では『ハンニバル』のリハーサルが進められ、そこに新しい支配人が挨拶に来るが以前から続く怪奇現象を軽視している。そのことにプリマドンナのカルロッタは怒り、出演を取りやめると言って去ってしまう。代役に抜擢されたクリスティーヌは見事に役をこなし、名声を得る。幼馴染のラウル子爵は彼女の楽屋を訪れるが、鏡の中から現れた怪人がクリスティーヌをオペラ座の地下深くへと連れ去ってしまう。

 

 大枠はこのような具合です。ストーリーの次は演出の話に移りましょう。やはり、シャンデリアという舞台機構の持つ力強さに言及せざるを得ません。時間軸が当時のオペラ座へと移行する際、あの有名なテーマソングをバックに、舞台上に配置されていた美しいシャンデリアが徐々に観客席の上、二階席よりも上の部分へと徐々に吊るしあげられていきます。この時点でグッと作品の世界に引き込まれていくので、この演出はインパクトがあって素晴らしいものでした。ただ、一幕のラストで印象的な使われ方をして以降は一切出番がありませんでした。場面が転換すると先述したリハーサルの場面ですが、きらびやかな衣装に身を包んだ演者たちが歌い踊るので、観ている人たちはまるで自分がオペラ座で観劇をしているかのような気分に。そこからはテンポよくカルロッタの不満と横暴、クリスティーヌの成功、怪人の跋扈が描かれていきます。神出鬼没な怪人の挙動が、様々な装置や演出で表現されていて、怪人の人間味というか、「彼が何者であるのか」という点にはほとんど言及がありません。ここは『ファントム』との大きな違いになります。カルロッタの見せ場も多くはありません。そのため、怪人がそこまでカルロッタを嫌う理由が少し分かりにくかったような気もします。カルロッタに関しては、彼女の声がカエルの声になってしまうシーンの演出も気になりました。舞台上で作品が進行している最中にどこからか怪人の声が聞こえ、カルロッタの声が変化するのですが、事前に怪人が薬を飲ませたとかそういうシーンがないので、本当にいきなり、魔法のように出来事が進んでいきます。その一方で「怪人は物理学や建築学に精通している(すこしあやふやです)」といったセリフなどで「怪人は手品師でしかない」ことを強調してみたり、反対に杖から火を飛ばすなど、怪人の超人間性を強調するシーンも多いように感じました。この作品はほとんどがオペラ座内部の場面で構成されているのですが、墓地の場面だけはオペラ座の外でストーリーが進みます。当の怪人もこの場面に現れるので、個人的にですが「あ、劇場の外にも普通に来るのか」と思ってしまいました。この点については、もっと振り切って怪人を描いてもよかったのではないか?と思います。

 怪人の描き方以外には、二幕の始まりにあたるマスカレードのシーンが印象に残っています。仮面をつけることで自分以外の誰かになる、誰かを装うことによって種の不気味さが強調される中で怪人が現れる場面なのですが、出演者の人数が問題なのか階段の両サイドをマネキンが埋めていました。怪人が派手に現れて消えるというインパクトに隠れていましたが、すこし迫力にかけるかなという印象です。

 最後に、怪人の喉の調子が悪そうで、時折高音がひっくり返ったりしていたのが少し残念でした。

 大きく気になったのは怪人の描き方でした。ただ、冒頭で述べたようにこの作品は名曲揃いで、言い方は悪いですがその力を前にすると細かいことはどうでもよくなってしまうのです。

 面白い作品でした。

 

蛇足ですが、京都劇場の座席が合わず、体が痛いです。あと、座席横の通路を照らすライトが上演中もずっとそれなりの光量でつきっぱなしなので、席の位置によっては気になるかと思います。私は通路側だったのですが、少し視界にちらつくなーという感じでした。