感情の揺れ方

それでも笑っていたい

劇評:眞鍋卓嗣演出『ドリームガールズ』

 「名曲がひとつでもあればミュージカルは名作となる」なんて言説があるけれど、この作品にその格言は当てはまらないようだった。『ドリームガールズ』。トニー賞グラミー賞を受賞した大ヒットミュージカルで、日本では2006年にビヨンセが主演した映画版の方が有名かもしれない。「ONE NIGHT ONLY」「(AND I AM TELLING YOU) I'M NOT GOING」など数々の名曲は、誰もが聴いたことのあるものだろう。そんな名曲に彩られたこのミュージカルは、しかし名作とは言い難いものだった。

 ミュージカルとコンサート、あるいはリサイタルとの分水嶺と言えばいいのか、端的に言えばどっちつかずの構成だったように思う。もちろんそれぞれのナンバーは素晴らしいし、主演の望海風斗を筆頭とした各演者のパフォーマンスも良かったけれど、歌・楽曲のクオリティと作品全体のクオリティは必ずしも一致するわけではない。むしろ各ナンバーとパフォーマンスに力がありすぎて全体にメリハリがなく、すこし胃もたれしてしまうような感覚があった。惜しい。ものすごく惜しい作品だった。1960年代から1970年代にかけての人種差別や公民権運動、それとかかわるショービジネスの光と影。「ソウル」という言葉に集約される「彼ら」が決して手放すことの出来ない何か。現代日本にも通底するこれらの価値観が、もうすこし真に迫った形で伝われば、この日本オリジナル版はまた違った作品になっていたのではないだろうか。