2020年、新型感染症の流行が拡大し、宝塚歌劇はもちろん演劇界全体が大きな影響を受けました。披露されることのなかった演目の数たるや、もはや想像することも出来ません。エンターテインメントが停滞した年。それが2020年でした。劇場に足を運ぶことが不可能になった状態で出来ることと言えば、映像作品を楽しむことくらいしかありません。そこでこのエントリーでは、宝塚歌劇のオリジナル作品に照準を絞り、個人的に大好きなお芝居を5作品とショーを10作品紹介したいと思います。「お芝居」を「オリジナル作品」に絞ったのは、「宝塚歌劇の強みはオリジナル作品にある」と私が考えているからです。スターシステムにのっとった、「誰が演じるのか」に重きを置いた劇団運営には…この話はこれくらいにしておきましょう。要するに、「お芝居」の「オリジナル作品」は「原作なしの完全オリジナル作品」ということです。そしてあくまで「5選」「10選」であって、ベスト5ではありません。選出された作品に順位はつけていません。
お芝居5選
①2019年花組公演『CASANOVA』
花組は悩みましたが、生田大和先生作・演出のオリジナル作品である『CASANOVA』を選出しました。この作品で特徴的なのはまず宝塚には珍しい「オリジナルの一本物」であるところ。海外ミュージカルの一本物が多い中、オリジナルの一本物を上演するところに宝塚のチャレンジを感じます。詳細な感想は以下のエントリーで。
②2018年月組公演『THE LAST PARTY』
『All for One』とどちらにするか悩みましたが、「原作なしオリジナル」というルールに鑑みた結果、本公演ではないものの月城かなとさん主演、植田景子先生作・演出の『THE LAST PARTY』を選びました。なんと言ってもスコット・フィッツジェラルドを演じる(厳密には違うけれど)月城かなとさんの演技が素晴らしい。植田先生の徹底した演出にも見ごたえがあります。こちらも詳細な感想は以下のエントリーで。
③2015年雪組公演『星逢一夜』
『ひかりふる路』と悩んだ末、雪組らしいこちらの作品に。上田久美子先生の大劇場デビュー作となるこちらは、江戸中期を舞台に天野晴興(早霧せいな)と泉(咲妃みゆ)、源太(望海風斗)の三人を巡る悲しき運命を描く名作です。早霧さんの端正な表現力と咲妃さんの清廉とした佇まい、雰囲気が素晴らしく、涙なくして観ることは出来ません。
④2016年星組公演『桜華に舞え』
星組はあまり悩むことなく、この作品になりました。北翔海莉・妃海風というトップコンビの退団作品である『桜華に舞え』の作・演出は齋藤吉正先生。なんというか、自分の贔屓にはこういう作品でサヨナラして欲しいなと思わせる作品です。北翔海莉という男役の魅力を最大限に引き出すような脚本、演出は当て書きならでは。星組の男役に特有のオラオラした熱い雰囲気と幕末から明治にかけての侍たちが持っていた強い意志、野望が上手くハマっていて、特にクライマックスの桐野利秋(北翔海莉)が散っていく場面は何度観ても泣いてしまいます。詳細な感想は以下のエントリーに。
⑤2017年宙組公演『神々の土地』
同じく朝夏まなとさん主演の『メランコリック・ジゴロ』とも悩みましたが、上田久美子作・演出で特徴のあるこちらの作品に。朝夏さんのサヨナラ作品であるこちらは、トップ娘役がいない状態での上演となりました。ヒロインのイリナを演じるのは同じくこの作品で退団された伶美うららさん。ミュージカルながらナンバーの数は少ないですが、そんなことが気にならないほど面白い作品です。詳細な感想は以下のエントリーで。
ショー10選
①2012年花組公演『CONGA!!』作・演出:藤井大介
蘭寿とむ・蘭乃はなという近年でも屈指のダンスコンビがその実力を遺憾なく発揮したラテン・ショーです。当時の花組はトップコンビを筆頭に月央和沙さんや冴月瑠那さん、華耀きらりさんなどダンスに秀でた組子が多く、その面々が1時間本当に踊り続ける様子は圧巻の一言に尽きます。
②2017年花組公演『Santé!!』作・演出:藤井大介
花組の好きなショーを選んだら、2作品とも藤井大介先生のものになってしまいました。「ワイン」をテーマにした明日海りお・仙名彩世というトップコンビによるショーですが、やはり見どころは冒頭の場面でしょうか。芹香斗亜さんなどの男役がそれぞれワインを擬人化した女装姿で登場するのですが、詳細はこれくらいにしておきます。藤井大介先生、男役に娘役の格好をさせるのが好きな印象。
③2012年月組公演『Misty Station』作・演出:齋藤吉正
トップコンビ霧矢大夢・蒼乃夕妃のサヨナラ公演です。龍真咲さん、明日海りおさんという男役の面々はもちろん、愛希れいかさん、咲妃みゆさんなどなど娘役もかなり豪華な顔ぶれになっています。ロケットへ続く場面には『新世紀エヴァンゲリオン』の楽曲「魂のルフラン」が使われていて、齋藤吉正先生らしい演出になっています。同じくこの公演で退団される青樹泉さんがソロで歌いながら銀橋を渡る場面は曲も相まってウルっときますね。
④2018年月組公演『BADDY』作・演出:上田久美子
上田久美子先生が初めて手掛けるショー作品はセリフも多く、ひとつのストーリー仕立てになった珍しい作品になっています。世界平和が達成されて久しい地球に月から大悪党「BADDY」がやってくる──。そんな筋書きのこのショーで最も印象的なのは、ロケットに続く場面で愛希れいかさんが披露した「怒りのダンス」です。色々な言葉で語るより、一度見ていただいた方が速い。それくらいのパフォーマンスです。
⑤2015年雪組公演『La Esmeralda』作・演出:齋藤吉正
早霧せいな・咲妃みゆによる素晴らしいショーです。なんと言えばいいのか、良い意味でとても宝塚らしい、オーソドックスなショー作品。望海風斗さんの流石と言うべきパフォーマンスやまだ若い月城かなとさんの美しさ、終盤のロケットから続く、「Mambo No.8」「悲しき願い」「SUNNY」のリレーは最高の一言。そして特筆すべきは、今作で退団された透水さらささんの八面六臂の大活躍でしょうか。「コメプリマ」は名シーンです。
望海風斗・真彩希帆の退団公演であるこちらのショーは生田大和先生による初のショー作品で、菅野よう子氏が楽曲を提供されています。二人のパフォーマンスは圧巻。特に「ダスカ」の場面は語り継がれることでしょう。多くのアニメや映画音楽を手掛けている菅野よう子氏と宝塚の親和性にも驚かされます。
⑦2017年星組公演『Bouquet de TAKARAZUKA』作・演出:酒井澄夫
紅ゆずる・綺咲愛里による、ナンバーが多く観ていて楽しいショー作品。宝塚レビューの伝統であるパリを舞台にした作品で、ファン歴の長い人からそうでない人まで広く楽しめる造りになっている一方、中詰めで組子が勢ぞろいする場面では、それまでの各場面で着用していた衣装のまま総踊りをするなど、斬新な演出も多くあります。東京公演の千秋楽では、紅さんがトナカイの被り物をして登場するなど、ハッピーな雰囲気です。
⑧2020年星組公演『Ray-星の光線-』作・演出:中村一徳
新トップコンビ礼真琴・舞空瞳のお披露目公演となるこの作品は、それまで星組とは打って変わってダンスに重点を置いたショーになっています。踊り通し歌い通しのお二人ですが、そのパフォーマンスは若さを感じさせないほど素晴らしいものがあります。フィナーレの群舞、デュエットダンスなど、終盤になるにつれて上がる熱量には思わずため息が出るほど。
⑨2016年宙組公演『HOT EYES!!』作・演出:藤井大介
朝夏まなと・実咲凛音によるこのショーは男役・朝夏まなとの魅力が余すところなく発揮されていて、思わず「カッコイイ~」という心の声が外に漏れ出てしまいます。ノーブルな雰囲気とある種の「チャラさ」を兼ね備えた朝夏さんの印象的な「目」をテーマにショーは進んでいくのですが、真風涼帆さんのパフォーマンスにも素晴らしいものがあります。観ていてダレるような場面がない、宝塚らしい作品です。
⑩2019年宙組公演『アクアヴィーテ!!~生命の水~』作・演出:藤井大介
こちらも藤井大介先生による、真風涼帆・星風まどか率いる宙組のショー。印象的なのは、この作品で退団された実羚淳さんがバレエを披露した場面でしょうか。当時の宙組でも屈指のダンサーが見せたパフォーマンスは素晴らしいの一言。観劇したときの衝撃を今でも覚えています。男役の和希そらさんが娘役姿で見せたパフォーマンスも記憶に残っています。
いかがでしたでしょうか。完全の個人の好みで選んだ15作品ですが、CSのスカイステージで放送されることも多いので、よければ是非ご覧ください。宝塚の醍醐味はやはり劇場での観劇かとは思いますが、映像で見ると劇場では目につかないようなことにも気づくことが出来ますので、このようなご時勢をきっかけにみなさんが新たな楽しみ方と出会っていただければ、一ファンとしては嬉しく思います。