感情の揺れ方

それでも笑っていたい

映画『ジョン・ウィック』

 こういう映画が好きだ。This is HollyWood とでも言うような、エンターテインメントの塊とでも言うような、アクションてんこ盛りで人がバンバン死んでいくような映画が、ときどき無性に見たくなる。

 『ジョン・ウィック』の主人公はキアヌ・リーヴス演じるジョン・ウィック。凄腕の殺し屋、だけど今は引退して…。という、悪く言えば使い古された設定だけれど、キアヌが演じるとそれでいいよとなってしまう。愛を知り結婚をして引退するが、最愛の妻ヘレンが病死。ジョンは生きる希望を失うが、ジョンのことを心配したヘレンは子犬を手配していて、その犬がジョンの新たな希望になりつつあった。しかしその矢先、ジョンの愛車を狙った強盗に家を襲われ、愛車のマスタングを奪われるばかりかその子犬まで殺されてしまう。復讐を決意したジョンは──。

 ここからはもうバンバン人が死んでいく。発砲以外のシーンを探す方が難しい。けれど、この映画はオーセンティックなノワール映画ではない。むしろ外連味にあふれた、キッチュな作品になっている。ある意味で、ものすごく現代的なアクション映画という雰囲気が全体を覆っている。監督のチャド・スタエルスキは日本のアニメにも影響を受けたと語っているから、そういう部分も多かった。ファンタジックな、けれど誰もが知っている、あるいはみんなが一度は想像したことがあるような演出が散りばめられている。ジョンの愛車が古い型のマスタングであることから始まり、家の床下に隠している武器一式をハンマーでコンクリートを破壊して取り出したり。ホテルの地下にあるクラブはスタッフルームの奥にあって秘密のコインがなければ入れないし。カッコイイ女スパイに命を狙われるし、殺した死体の処理は「ディナー」という隠語で表現されているし。一番好きだったのは、主人公のジョンを登場人物のほとんどが知っていること。復讐を決意したジョンのもとに送り込まれた殺し屋集団をジョンがそれはもう一掃してしまうのだが、騒音苦情で駆け付けた警察官は転がっている死体を見ながら「仕事かい?」とだけ聞いて去っていく。いや帰るのかよ。「コンチネンタル」という組織が運営するホテルのフロントはもちろんジョンのことを知っている。5年ぶりくらいに来たのに。客室で殺し合っている騒音を聞いて廊下に出てきた隣人も当たり前のように知り合いの殺し屋だ。「ババヤガ」というあだ名のブギーマンを知らないのは、強盗に入ったロシアンマフィアのバカ息子とそのツレだけ。

 このような、ハッタリの効いた演出がずっと続いていく。重くなりすぎない雰囲気がずっと続いていく。そこが良かった。こう言ってはなんだが、犬を殺された復讐でマフィアを壊滅されているというより、愛する妻を病に奪われ、その行き場のない感情をどうすればいいのか悩んでいたところに頭の悪いマフィアが来たからボコボコにしておくか、くらいに見えるところも良い。暴力とは理不尽なものなのだ。そして、犬の命は人の命によって贖われなければならない。

 

 

ジョン・ウィック(字幕版)

ジョン・ウィック(字幕版)

  • 発売日: 2016/02/10
  • メディア: Prime Video