感情の揺れ方

それでも笑っていたい

金子茂樹脚本『コントが始まる』第1話

 『花束みたいな恋をした』のヒットが記憶に新しい菅田将暉有村架純のコンビを主演に迎え、金子茂樹が脚本を務めるドラマ『コントが始まる』の放送が開始された。コントが、始まった。

このドラマは毎話、一本の『ショートコント』から幕を開ける。それはある売れないトリオによる、取り留めのないショートコント……。しかし実はそのコント、 後に起きる53分の物語の「前フリ」だった!!

  公式ホームページにあるあまりにも丁寧なこの文言の通り、物語は「マクベス」という売れないトリオによるコントライブから始まる。第1話におけるそれは「水のトラブル」というタイトルを冠したコントであり、内容は「業者が水のトラブルで訪れたラーメン屋には、触れた『水』をすべてメロンソーダに変えてしまう店員がいた」というもの。「触れたものを変えてしまう」をテーマに、第1話では登場人物に起きるさまざまな「変化」が描かれる。そしてそこにはいつも「容器に入った水」がある。

 中華料理屋で「マクベス」を結成したときのテーブルにはラーメンと水の入ったコップ。ネタを作っているファミレスではホットコーヒー。マクベスがコンビからトリオになった居酒屋。高岩春斗(菅田将暉)と中浜里穂子(有村架純)が出会った公演のベンチにはペットボトルの水、缶ビール。そして「容器に入った水」はすなわちマクベスの3人であり、3人が解散を決めた福岡のラーメン屋で、3度替え玉をしたラーメンのスープはもうほとんどなくなっていたのではないだろうか。

 「あふれ出てしまう」あるいは「こぼれ落ちてしまう」ような登場人物たちの、どうしようもない変化の流れは、移動する場面の多さによっても描かれている。橋を渡ってスーパーに買い物へ行き、マクベスは車で東京から福岡へと最後の旅に出る。もうそこにはいられないのだという、確信めいた予感。変化の行き先はメロンソーダか、レモンスカッシュか。

 

坂元裕二脚本『大豆田とわ子と三人の元夫』第1話

 

  坂元裕二によるドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の放送が開始された。『カルテット』『スイッチ』といった坂元作品での活躍が記憶に新しい松たか子を主演に迎え、タイトルにある「三人の元夫」には松田龍平東京03角田晃広岡田将生という豪華な面々がキャスティングされている。ともすれば演者にばかり注目が集まりそうなところではあるがそこはやはり坂元裕二で、第1話にして傑作の予感に満ちた作品になっていた。テレビドラマならではの絶妙な会話劇と、徹底した演出に画面の色調補正、見た者の日常にちょっとしたトゲを刺すような言葉の数々。

 「今ここ」には存在しないなにか……例えば過去や未来といったものの記憶や気配が、「今ここ」いる人たちに影響を及ぼす。それは奥歯に挟まった朝ご飯のゴマであり、また唄(豊嶋花)と綿来かごめ(市川実日子)が興じる囲碁は恐らく一人目の元夫・田中八作(松田龍平)の影響で、第1話を貫くのは三人の元夫の誰かが設定したPCのパスワードを解除するための「秘密の質問」だ。大豆田とわ子はそのすべてに振り回されながらも、幸せになろうとすることを諦めない。

「まぁ、色々あるさ。(中略)どっちか全部ってことはないでしょ。楽しいまま不安、不安なまま、楽しい…」

 人間は複雑な、さまざまな面を持つ生き物だ。生まれたときから反抗期の娘はすくすく育っているし、初めこそ腰が低い二番目の元夫・佐藤鹿太郎(角田晃広)は他人の家ですぐに靴下を脱ぐし、機嫌の悪いギャルソンは実は良い人。なにかひとつがその人の全部ということはない。食事シーンの多さも、第1話の印象的なところ。食べるということはもちろん生きていくことだ。サンドウィッチを三番目の元夫・中村慎森(岡田将生)に目の前で奪われても、差し入れのカレーパンが自分のところにだけ回ってこなくても、お弁当の醤油が白い服にかかってしまっても、とわ子はしっかりと食事をとる。いや、登場人物の全員がしっかりと食事をとる。結婚式の引き出物であろうバウムクーヘンを歩きながら鷲掴みにして食べるとわ子の姿なんか、最高と言うほかない。『最高な人生のはじまりを見つける幸せなパン』というタイトルの映画をとわ子が見ることはなかったけれども、PCのパスワードを変更し、ずっと自分のそばに置いていた亡き母の位牌をしっかりと墓に収めた彼女の生きざまに、期待をしてしまう。

 

週間日記(2021/4/12~4/18)

 4/12(月):めちゃくちゃに眠る日だった。一日のほとんどをベッドで過ごしたような気もする。だいたいいつも通りの時間に一度は起きたものの、昨日の雪組大千秋楽の余韻が残っていて、あまり動く気にならなかった。夢にまで雪組が出てくる始末。ベッドに入ったままカーテンを開けて日光を浴びたのだが、そのまま二度寝に入ってしまった。良くない。目が覚めたら、3分クッキングが始まっていた。非常に良くない。しかし、こういう日もある。開き直るしかない。とりあえず洗濯物をしたり、目覚ましにシャワーを浴びたり。それからは外の空気を吸うために、散歩へ。途中でセットアップをクリーニングに出し、「ジャンプ」を買ってから帰宅。気温は高かったけれど、風がめちゃくちゃ強かったので、体感では微妙な暖かさだった。午後は録画していたバラエティを見つつ、すこし作業を進める。「ロンドンハーツ」では、前回に引き続きおいでやす小田がおもちゃにされていて良かった。TVerでは「キョコロヒー」。ダンサーのTAKAHIROさんがすべてを持っていったので、今週もまだ何番組なのかは分からなかった。齊藤京子の低音ボイスがいい。低温ボイスでもある。低温ボイスでもあるな。大事なことなので2回言いました。夕方から、掃除機をかけた。「ハライチのターン」を聞きながら。「クイックジャパン」も「QRコードつき名刺」も両方欲しい。澤部のエッセイデビュー、いったいどうなるのか。夜はスカイステージで放送されているタカラヅカニュースで昨日の大千秋楽映像を見た。はぁ~ん…という感じ。非常にこう、寂しいですね。いまだに。ただ真彩希帆さんはディナーショーの開催を発表されたし、ゆめ真音さんの舞台出演も発表されたので、私もこう、前に進んで行こうと思います。あと全然関係ないですが、めちゃくちゃチャーハンが食べたいです。近所にある、入って座る前に注文をして、セルフサービスの水を注いで椅子に座ったらその瞬間にチャーハンが出てくる、爆速ラーメン店にでも行こうかな。

 

 4/13(火):最近はずっとポルノグラフィティを聴きながら作業をしている。完全に花組公演『Cool Beast!!』の影響。今回使われていたのは「狼」と「ジョバイロ」。ポルノグラフィティと言えば「音量が小さい」問題のイメージがあるけれど、久々にSpotifyで聞いたらその問題は完全に解決されていた。そういえば逆に「音が大きい」印象だったperfumeもサブスクだとそんなことはなかったので、色々解決されてきているのかもしれない。そろそろテレビで映画を見ているときの「本編に合わせるとCMが爆音になる」問題もどうにかして欲しい。今日はちょうどいいくらいの気温だったような気がする。自室で窓を開けて作業をしていても寒くなかった。一生これくらいでいい。日光を浴びながら作業をする方がなんとなく捗るような。ディレクターズチェアみたいなやつを買ってベランダに…たぶん、やらない。ぼんやりと起きて、とりあえず録画していた「有吉の壁」のスペシャルを見ながら朝ご飯を食べ、そのままPCを立ち上げて作業に移った。意外とやる気のある日だったのかもしれない。「有吉の壁」あるある、地上波の壁を越えられずにカットされた芸人がMC2人の後ろを歩いている。次にかまいたち・山内、ハライチ・岩井、アインシュタイン・稲田が出演していた「ボクらの時代」。あと30分くらいは見られるなと思った。そのまま今度は先週分の「おちょやん」。二次大戦が終わった。「演劇なんて不謹慎だ」という大衆の暴力が今の時代を見ているようで、しんどいものがあった。「エンタメが不謹慎」なら、「詩を書くことは野蛮」なのだろうか。今日は完全にコーヒーを飲みすぎたようで、夕方にめちゃくちゃ手が震えだしたキーボードを打つ左手の小指が変な位置に行ってしまって、しっくりこない。新しい症状。夕方から雨が降り出した。ベランダに出てみると空気が湿っていて、非常に春らしい。最近はスーパーに行ってみると貝類が並んでいて、季節が進んでいるのを感じる。関西では関東ほど貝類を食べないので、春先にあさりやハマグリ以外の貝類が売られているのを見ると世界が変わったような気がする。夜に見た「マツコの知らない世界」はゲストがさかなクンさんだった。関西と関東の魚食文化の違い、面白いものがある。今日は早めに眠りたい。

 

 4/14(水):昨日の夜は全然眠れなかった。昨日の夜というか、ここ最近は眠いなぁと思ってベッドに入ってから1時間以上寝つけないことがざらにある。いっそ開き直って失神するような状態まで作業をするなり映画を見るなりしていた方がいいのだろうか。ぼんやりと起きて朝ご飯を食べた後は、怒涛のドラマ視聴タイム。4月クールはなんとなくドラマもちゃんと見ようと思い立ち、何本かを録画している。とりあえず最初に櫻井翔主演の「ネメシス」を再生しながらPCでカタカタと作業。役柄とはいえポンコツ櫻井翔が見られるのは、一嵐ファンとして嬉しい限り。櫻井翔、いや翔ちゃんはニュース番組に出ているのに抜けたところがあるのが特徴です。ドラマ自体はエンターテインメントという感じがあって良かった。パーマで髪の毛クルクルの広瀬すずさん、かわいい。ネットニュースで見た「フォーマットが『名探偵コナン』」というコメント、めちゃくちゃ分かる。2本目は「イチケイのカラス」第2話。竹野内豊が相変わらずハンサム。そしてなんというか、世間一般にある偏見やティピカルな思い込みみたいなものをすくいあげ、その裏をかくのがうまい。エントリーでも書こうかな。最後は坂元裕二脚本による「大豆田とわ子と三人の元夫」。これがあるのでついでに他のドラマも見ている、みたいなところがある。失礼な話ですが…。そしてこれがめちゃくちゃ面白かった。「カルテット」以来の連続ドラマ。特別ドラマの「スイッチ」にも松たか子が出演していたのでかなり期待していたのだが、その期待を軽々と越えてくる。岡田将生の美しさったらない。これもたぶんエントリーを書く。午後はコーヒーを飲んだりアイスを食べたり「バナナムーン」を聞いたり。捗ったかどうかは別にして、今日はそれなりに作業することが出来た。もっとギアを上げていきたい。夜は「刑事コロンボ」を見る。コロンボかかりつけの歯医者がゲンドウみたいな声をしているなと思って調べたら、本当に立木文彦さんだった。今日はもうすこし作業をしてから眠りたい。

   

 4/15(木):微妙な不眠が続いている。半年くらい前にもこういう時期があったような気がする。そのときは確か、枕を別のものに替えたらあっさり治まったように記憶している。なんというか、精神的な問題なのだろう。ラベンダーのフレグランスを焚こうかな。寝室に。ぼんやりと起きて、ぼんやりと朝ご飯を食べる。午前中は特に何もしていない。昼前から車に乗って外出。外出といっても、ただ最寄りのケンタッキーへ行き、テイクアウトして帰ってきただけ。クリスマスでもないのにバーレルを買うと、なんだかハッピーな気分になる。大阪のエキスポシティにあるケンタッキーでは「食べ放題」をやっているらしいけれど、ケンタッキーの食べ放題って開始10分で後悔しそうだなと思う。楽しめるのって3つまでじゃないですか、オリジナルチキンは。おそらく、自分が行ったら延々メープルシロップを骨なしチキンにかけて食べていると思う。骨なしチキンをビスケットに挟んでめちゃくちゃにシロップをかけて食べると、予想通りの味がして美味しいんですよ、あの、たぶん誰もやらないとは思いますけど。午後も何もしていない。今日は特に何もない、すばらしい一日だった。夜に見た「VS魂」に出ていた岡田将生がかっこよかったことしか覚えていない。あともうひとつ。「本質的に不健全」とか、「合理的な区別」って一体なんなのだろうと思った。こういう日は早めに寝たいけれど、ここ最近の体調を考えると、どうだろう。

 

 4/16(金):今日は本当にダメな日だった。もうめちゃくちゃにダメな日。天候も不安定なら、こっちの情緒も不安定で、基礎工事の業者を探す必要があるくらいの日だった。精神がめちゃくちゃ。どうにかして欲しい。まず、全然目が覚めなかった。昨晩は結局未明くらいまで眠れなくて、その結果10時くらいまで寝てしまった。なるべく午前中には起きたい、午前中に起きたいというか、出来る限り毎日同じ時間に起きたい。生活リズム、大事。あーあと思いながら起きて、微妙な時間だったのでそのまま顔を洗い、朝食はスキップして家のことに取りかかる。掃除機をがんがんかける。「ハライチのターン」を聞きながら。昔のガラケーに入っているメールから始まるリトルバックトゥザフューチャー、なんかよかった。あぁ懐かしきチェリー澤部。クラウドの「名刺どんだけ配ったか合戦」でも笑う。岩井さん、やる気があるのかないのか。そして音声再生数、まさかの17。17って。このブログでももうちょっと見られてるよ。掃除などが終わったころのは「ヒルナンデス」の時間だったので、朝食兼昼食を食べる。録画していた「有吉の壁」を見ながら。ニッポンの社長・ケツが空気階段・鈴木もぐらに入れ替わるやつが好きだった。有吉さんの言う通り、ああいうときのもぐらの顔は怖い。次は石原さとみ綾野剛コンビが主演のドラマ「恋はDeepに」の第1話。なんというか、なんだろう、なんじゃあこれ!っていう感じの感想しか出てこない。ああいう雰囲気の綾野剛はこう、テイスティだけども。石原さとみは「アンナチュラル」くらいにチャンネル合わせた感じが好き。アースラ的存在の登場が待たれる。それから午後は寝たり起きたり。書こうと思っていたエントリーも書けなかった。夜は寝る前にTVerで「シンパイ賞」と「テレビ千鳥」を立て続けに見た。「シンパイ」では、お笑いファンなら誰もが知っている(のだろうか)、ソラシドの本坊さんがフィーチャーされていた。今や飛ぶ鳥を落とす勢いでテレビに出続けている麒麟・川島の同期であり、親友でもある本坊さん。とろサーモン・村田が撮影したドキュメンタリーで見せた東京での生活に別れを告げ、現在は「住みます芸人」として山形に移住している。去年書いたネタは1本で、作ったニンニクは3500本とのことだった。本坊さんがもっとテレビに出られたらいいのになぁなんて思いながら再生した「テレビ千鳥」にも川島の姿が。いつだかの「いろはに千鳥」に本坊さんが出演した回で、「俺がもっと頑張ったら本坊さんのこともどうにか出来る」と言っていた千鳥・大悟が思い出される。本坊さんのことをどうにか出来るくらいの立ち位置にまで上り詰めた二人の心中たるや。今日も寝られるなら早く眠りたい。

 

  4/17(土):昨晩の入眠チャレンジは失敗です。失敗でした。入眠はもたつくし、寝ている間も半分くらいは起きているような感覚がある。花粉が収まり、黄砂も減って、日照時間が増えてきたら改善される気がする。改善されて欲しい。今日は一日中天気が悪かった。ずっと雨がしたたかに降っていた。折からの不調に加えて気圧も低いとなると、輪をかけてままならない。ぼんやりと起きて、ぼんやりと朝ご飯を食べる。川合俊一のいない「あさパラ」はやっぱりすこし雰囲気が違う。11時くらいに外出。近所にあるラーメン店で、つけ麵を食べた。麺の量が選べるタイプのつけ麵、食べた後に苦しくなることが分かっていてもギリギリの量を注文してしまう。結果的に苦しくなった。今日も。それに加えて腹痛まで来てしまって、自分の愚かさに笑えてくる。精神だけでなく、体の調子も良くはないらしい。美味しかったのでセーフ。それからは草津近鉄に移動して、ぼちぼち買い物をした。2階の東急ハンズで防水スプレーを探していたら、唐突に「いや、家になかったっけ?」と思い立ち、とりあえず保留。あったような気がする。どこかに。何年か履いているスニーカーやマウンテンパーカーの防水機能がガタ落ちで、今日もびしゃびしゃになってしまった。濡れてしまった靴下は気持ち悪いけれど、履いていなければ渇かない。ちょっとことわざっぽいですね。どうですか。最後にスターバックスで甘い飲み物を買って、飲みながら帰宅した。期間限定のフラペチーノ、ティーの方が好みでした。午後は寝たり起きたり、エントリーを書いたり。ようやく『イチケイのカラス』第2話の感想を書くことが出来た。ようやく。明日には『大豆田とわ子』の方を書きたいけれど、今日の夜には『コントが始まる』が放送開始なので、ちょっと追いつかないかもしれない。下を向いている暇などない、ないのだ…。爪を切ってから寝たいと思う。

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 4/18(日):おじさんというのは本当に嫌な存在である。この場合「おじさん」の定義を「嫌な存在」にしているので、ウィトゲンシュタイン的ナンセンスではあるのだが、それにしたって今日は嫌なおじさんに出会うこと出会うこと。午前中からぼちぼちと出掛けたのだが、まずは買い物に行き、その帰りに駐車場でエンジンをかけてナビをいじっていたら見ず知らずのおじさんが車の前に立ちはだかり、「早く車を出せ」と言わんばかりに右手を振り出した。正直、意味が分からなかった。全然混んでいないのだ、そもそもが。なんなら私が停めていたスペースの真向かいが空いている。本当に意味が分からなくて困惑したので、一体どういう意図があってそういう行動を取っているのか、思わず車から降りて問いただしてしまった。結局相手は何も言わずに立ち去ってしまったけれど、本当に気味が悪かった。今振り返ると自分の身に危険が及ぶ可能性もあったので、反省している。ああいうときは無視を決め込むのがいいのだろうか。昼食を取った場所にも最悪なおじさんがいた。しかも2人。まずは足ふみおじさん。建物の2階にあるレストランへ入るために階段を上がっていたら、後ろから変に急いでいるおじさんが来て、追い抜きざまに足を踏まれた。シンプルにめちゃくちゃむかついた。車か何かに忘れ物をして、それを取りに戻った帰りだったっぽいけれど、知らないよそんなこと。あなたの向かいに座っている人は自分さえよければ他人の足を踏んでいくような人ですよと、最悪おじさんの連れ合いに伝えようかと思うくらいむかついた。トイレへと続く、人がやっとすれ違えるような狭い通路でわざわざ前の人を追い抜くタイプの人間なんじゃないだろうか。つまりは最悪。自分と同じカウンターの端っこに座っていたおじさんもこれまた最悪で、数年前に亡くなった有名俳優の付け人を40年近くやっていた人だった。なぜそんなことが分かったかと聞かれれば、話していることがすべて分かるくらいの声量でしゃべり続けていたからだと答えるしかない。ずっとうるさかったし、スタッフにも偉そうな態度を取っていて、辟易した。こんな、絵にかいたようなハラスメントおじさんまだ現存してるんだという感じ。実際に偉かったら他人に偉そうな態度を取っていいのかという問題がある。飲食店の人たちは、どんな人にでも頭を下げなければいけないのだろうか。かなり大変な職業だ。今日も天気は悪いし、相変わらず情緒は不安定だしで、どうにもならなかった。進捗、ゼロです。月曜日からは気持ちを切り替えて頑張る。

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アンガーマネジメント肉。



 

浜田秀哉脚本『イチケイのカラス』第2話

 正直なところ、第1話を見た時点では気になるところが多かった。それは例えば入間みちお(竹野内豊)や坂間千鶴(黒木華)の容姿に対する言及の多さなどがそれにあたるのだが……、この第2話は、ともすれば前時代的にも映るセリフや演出の数々に代表される「偏見」を、視聴者である私たちが無意識に抱いていることをあぶり出すような構成になっていた。「裁く側は常に裁かれる側でなければならない」という入間みちおの信念は、常に見る側である私たちもまた見られる側なのだという事実を白日の下にさらしたのだ。

 「偏見」。あるいは「先入観」。それは例えば第1話の大学生・長岡誠(萩原利久)が代議士・江波和義(勝村政信)に対して起こした傷害事件に対する「どうせ代議士があくどいことをしたのだ」という先入観であり、その反対の「馬鹿な学生がカッとなって先に代議士を殴ったのだ」という先入観であり、よりメタな視点である「どちらかが悪いのだ」という視聴者的な先入観だ。しかし、結末はそのどれでもなかった。江波は本当にあくどいことをしていたし、長岡は実際に自分から代議士を殴っていた。作品を通して視聴者の先入観を揺さぶる姿勢は、第2話でより強固なものになっていく。入間たちが扱うのは、1審で有罪判決が下された、人気料理研究家・深瀬瑤子(前田敦子)による幼児虐待事件だった。裁判の焦点は当時1歳半だった長女がSBS、いわゆる乳幼児揺さぶられ症候群になっていたかどうかなのだが、それを明らかにする過程でも、様々な「偏見」「先入観」が提示される。「母親の愛はすべての困難を超えていく」「現場にいた者が犯人だ」「保育士は元恋人の子供にケガをさせる」「小児科医の唐突な海外出張は逃亡である」……。入間たち裁判官が事件の真実を突き止めていく中で、職業や肩書きに対する偏見、ともすれば「こういうストーリーはこういうオチになるだろう」という先入観を私たち視聴者が持っていることに気づかされる。連行されるときに笑っていた料理研究家は無実であったし、保育士は決して子供を害してなどいなかったし、小児科医は真実を明らかにしようとする者だった。

 「裁判官はサラリーマンよりサラリーマン」という言葉が真実なのかは分からないが、検察と裁判官とが立場を超えて協力するシーンで元甲子園球児の井出伊織(山崎育三郎)がハードルを跳び越えていった(物理的に)のは、笑いにあふれながらも、『イチケイのカラス』という作品を象徴する名場面ではないだろうか。

 

週間日記(2021/4/5~4/11)

 4/5(月):すこし肌寒い。週間天気予報を見るに、どうやら今週は寒の戻りとなりそう。窓を開けて換気しながら作業をするのが一番捗るのだが、まだそれが出来る季節には早い。起きて、朝ご飯を食べながらTVerでバラエティを2本見る。まずは「あちこちオードリー」。今田耕司重篤ダウンタウン病が面白い。「キョコロヒー」は新しく始まったテレビ朝日の深夜バラエティで、日向坂46の齊藤京子とお笑い芸人のヒコロヒーによるダンスバラエティ。もう何から何まで狙いが分からないけれど、齊藤京子とヒコロヒーのダウナーな雰囲気が意外なほどにマッチしていて面白かった。なんならこの二人のトークを30分くらい見たい。バラエティで体のスイッチを入れてから、掃除に取りかかる。掃除機をかけながら聞いていたのは「バナナムーン」。有吉と舘ひろしの後ろ姿は見分けがつかないという日村さんの主張がめちゃくちゃすぎて笑ってしまった。絶対そんなわけないじゃん。家のことを終わらせて、一息ついてから最寄りの書店へ「ジャンプ」を買いに出た。気温も高くないし風は強いしで、季節がすこし戻ったような感覚。先週が暖かすぎただけで、本来ならこれくらいなのだろう。『呪術廻戦』は休載だった。最近は正直週刊連載って作家の命を削ってコンテンツ生み出してない?と思うことがある。いや、クリエイターってみんなそうだよと言われたらもう、どうしようもないけれど。昼前から夕方までは作業をして過ごす。HDDを圧迫しつつある録画番組を流しながら。「プロフェッショナル」のサンドウィッチマン回をようやく再生した。ちょいちょい画面に見切れてくるザ・マミィの酒井さんが無性に面白かった。あとは「おちょやん」。元まえだまえだの前田旺志郎くんが出演していて、『MIU404』のことを思い出す。ちょうど「プロフェッショナル」でサンドウィッチマンが優勝した2007年のM-1グランプリ」の敗者復活戦の映像にもちらっとまえだまえだが映っていたので、成長具合に驚く。調べてみると彼は2000年生まれで、なんと7歳にしてM-1の準決勝に進出していたことになる。怖いな。今日は望海風斗・真彩希帆という屈指のトップコンビについてのエントリーを書いた。真彩希帆って異質なトップ娘役でしたよね、だって宝塚のトップ娘役なのに自分色みたいなものをすべて捨てて舞台に臨んでいたんでうよという話。昨日観た花組公演についてのエントリーも書き始めたけれど、あまり筆が進まず。この感情を形にしていいのか、という葛藤がある。いや、絶対に書きます。夜はスイッチが切れてしまったので、BSで放送していた『ハムナプトラ』をぼんやりと見ていた。20年以上前の映画だけど、VFXが綺麗で普通に面白かった。あと大量のスカラベがめちゃくちゃ気持ち悪かった。もうすこし作業をしてから寝たい。

 

 4/6(火):いまひとつな天気。午後から徐々に雲が増え、夕方から雨が降り出した。いつも見ている天気予報のお兄さんによると、「天気予報が外れました」とのことらしい。一歩も外に出ていないので、あまり関係はなかったけれど。ぼんやりと起きて、午前中から作業。録画していた「オールスター後夜祭」を流しつつ。本編の「感謝祭」は見ずに。2年ぶりの放送になった「後夜祭」だが、時勢の影響もあって出演者は大幅に減らされていた。寂しさもあったけれど、それ以上に人数が少ないせいでクイズが続かないという進行上の問題が大きかったような気がする。「裏番組で今放送されているコーナーは?」というクイズ、突貫工事感があってよかった。今日はあまり調子が良くなくて、一日中寝たり起きたりを繰り返した。いつの間にか夜に。深夜帯に放送されていた「バナナサンド」が今週から火8、火曜夜8時からの放送になった。初回は2時間スペシャルで、渡米前最後のバラエティ収録になる渡辺直美がゲスト。ほかにバナナマンサンドウィッチマンが四人でシンプルにキャンプを楽しんでいた。楽しそうなおじさんたち、非常に良い。全員40代後半。一人は膝に水が貯まり、一人はCPAPをつけて寝ている。みんな長生きして欲しい。河原でテントサウナに入るの、気持ちよさそうなのでやってみたい。整いたい。全然元気がないので、もう早めに寝たい。進捗、ほとんどゼロです。

 

 4/7(水):めちゃくちゃ天気が良い。空が真っ青。夜中まで降り続いた雨の影響で、空気中の埃や塵が洗い流されたのかもしれない。花粉や黄砂が飛んでいる時期に通り雨が降ると、空がものすごく綺麗に見える。いや、だいたいどの季節も通り雨のあとに晴れたら綺麗に見えるような気がする。昨日に引き続き、今日もあまり体の調子がよくない。午前中は寝たり起きたりを繰り返しつつ、午後はしっかりと作業。録画していた先週分の「おちょやん」を見ながら。太平洋戦争が激化し、道頓堀にも戦火が広がり始め、さて劇団は…というところ。明日海りおさんも田舎に帰るのかと思ったら道頓堀に残ったので、もしかしたらかなり最後の方まで出演を続けられるのかもしれない。日曜に観た花組公演『アウグストゥス/Cool Beast!!』の感想エントリーを書いた。正直なところを綴ったので、好きな人が批判されているのが苦手な人は読まない方がいいかもしれない。自らの信条に背いてまで書いたけれど、どうなるだろう。主にショーに対しての批判が多くなってしまったものの、率直に言わせてもらえば、『アウグストゥス』もあんまりだった。語弊を恐れずに言えば「宝塚作品の脚本が面白くなくてもトップスターたちの力技で成立させればいい」と思っているのだが、組全体にその力がなかった。これくらいにしましょう。夜は『刑事コロンボ』を見た。コロンボのかみさんみたいな、「物語に一度も登場しないけれどみんなが知っている」みたいなキャラクター、他にもいそう。寝る前に爪を切りながら「シンパイ賞」「テレビ千鳥」を立て続けに見た。「花札がやりたいんじゃ」と銘打たれた、テレビ史上初の賭場バラエティ。こいこい、一時期携帯にアプリを入れて狂ったようにプレイしていたことがある。もちろん『サマーウォーズ』の影響で。花札で世界を救うんじゃい!と思っていたり、思っていなかったり。

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 4/8(木):昨日よりは暖かかった。起きて、朝ご飯を食べながら「おにぎりあたためますか」を見る。だいたい2年前に撮られた映像がKBS京都で遅れて放送されているので、紹介されたお店が今も営業しているかが不安になる。今日見た札幌のラーメン店は営業を続けていたので、なんとなく安心した。時間を超える形で提示される人々の営み、自分に全く関係がなくても気になってくる。人間の共感能力はすごい。適当な文章を打っています。午前中から車に乗って外出。竜王のアウトレットへ向かう。春休みがしっかりと終わったせいなのか、道も空いていたしアウトレットの人出も少なかった。感染の急拡大も影響しているのだろう。私が住んでいる周辺の自治体では高齢者の接種日程だけが決められる一方で、医療従事者が接種する予定は立っていない。もうめちゃくちゃだ。なんというか、新型感染症に関するもろもろのことがここまで遅々として進まないとは考えていなかった。もうちょっと、力というか、そういうものがあると思っていた。流行病は色々なことを白日の下に晒したような気がする。悲しい限りだ。アウトレットに到着して、とりあえず昼食を取る。いつものように回転寿司。今日は写真を撮っていない。普通に忘れた。その後はぶらぶらと買い物をして、お昼過ぎに帰宅。途中で薬局に寄って、目薬やフロスを買った。不織布マスクだと鼻セレブのマスクが好きなのだが、ほとんど売っているところを見かけない。何の気なしに入ったコンビニで見かけたりする。Amazonで調べて見ると、5袋のセットが4000円近い値段だった。1袋に4枚入っているので、1枚200円。ちょっと高くないですか。夕方から夜にかけては、ぼちぼちと作業。夜は録画していた「かりそめ天国」を見たり。有吉弘行の結婚報道があった日に放送されていた回。4月23日から金曜夜8時、つまり真裏で放送されるコント番組のレギュラーが決まり、「かりそめ天国」には出演できなくなるハナコ・岡部を華やかに送り出すという斬新なコーナーがあった。頑張れ岡部。有吉とマツコのやり取りを見ていると、会話だけでコンテンツを作り出すことのすごさを感じる。ちょっと憧れてしまう。これはもう、いわゆる「深夜ラジオの呪い」「オールナイトニッポンの呪い」と呼ばれる類のものだが、この呪いも番組内で言及されていた「自分でも出来そう」という勘違いに端を発するのだろう。

 

 4/9(金):肌寒いような、暖かいような。豊かな日差しとしたたかな風、夢の競演という感じ。なんとなくここ数週間でじんわりと体重が増加しつつあるので、現実を見つめてすこし運動を始めている。今日は午後から用事があったので、起きてすぐ30分ほど体を動かした。体重を減らすよりも体脂肪を減らして筋肉量を増やさなけれないけないというのは分かっているのだが、いかんせん目先の数字にとびかかってしまう。近頃はタコにも自制心がある、なんて研究が発表されましたが、人間はそうでもありません。運動をして、ぼんやりとご飯を食べながら録画していたドラマ『イチケイのカラス』を見る。なんというか、色々なドラマっぽかった。そもそも司法ものだからそうなるのも仕方ないような気がするけれど。竹野内豊がハンサム。勝村政信さんが冒頭からボコボコにされていて、すこし笑ってしまった。その後は身支度をして、昼前から外出。学部時代の同期と落ち合って、ご飯を食べたり。ずっと外で喋っていたので、一年分の外気を浴びたような気がする。夜には帰宅。めちゃくちゃお酒を飲んでから数時間が経ったあとに現れる、視界が暗くなってめちゃくちゃ汗が出てくると同時にお通じがすごいことになるあの現象、一体なんなんでしょうか。貧血でしょうか。

 

 4/10(土):いつもの土曜日よりはゆっくりと起きる。今日はもう本当に何もしていない。したがって書くこともないのだが、ちょっとひねり出そうと思います。昨日友人と、「チェーン店の味のブレ」についての話をした。どんな話なんだよという感じですが、続けます。例えば餃子の王将のように、店舗ごとにオリジナルのメニューがあるようなチェーン店ならお店によって味の違いが生まれるのは分かるし、それも個性ということになるけれど、セントラルキッチンがあるようなチェーンでも味にブレがあるように感じるのはなぜだろうという話になった。そもそも本当に「ブレ」ているのか?という、前提が間違っているのではないかという指摘も出たが、とりあえず「ブレている」方向で話を進めた方が面白そうなのでそちらに舵を切った。友人との会話にもエンターテインメント性を求めることが大事です。今まで経験した「ブレ」の話になり、私はもちろん大学の近くにあった、異常に味の濃いこってりを出す天下一品を挙げた。懐かしの回鍋肉定食。友人が挙げたのはミスタードーナツの京橋店。揚げ具合が最高らしいので、機会があれば行ってみたい。

 

 4/11(日):暖かいところもあり、寒いところもあり。ぼんやりと起きて、ぼんやりと朝ご飯を食べる。所ジョージが一枚かんでいる里山では、ミツバチに色々あったらしい。大量に集合している蜂、めちゃくちゃ苦手です。集合体恐怖症の気がある。ぼちぼちと準備をして、車に乗って外出する。最初にエイスクエアのGUに行って、ネットで見ていいなと思った靴を探した。すぐに見つかったものの、ネットで見た時より…なんかこう…しっくりこなかった。GUあるあるかもしれない、実物を見て小首をかしげるやつだった。うーん。黒いレザースニーカーが一足あるといいかなと思っているのだが、今一つピンと来るものに出会えていない。正確に言うと、良いなと思うものは総じて予算をオーバーしてくる。宝くじが当たらないかな。その後はイオンモールへ向かった。お昼ご飯を食べるため、途中で草津にあるうどん店「りんかい」へ寄った。正午のすこし前に着いたので早いかなと思ったけれど、注文をして待っている間にあれよあれよと満席になってしまったので、ギリギリのタイミングだった。このお店は天ぷらがめちゃくちゃ美味しい。もちろんうどんも。イオンモールに到着して、本日最大の目的である「望海風斗ラストデイ・雪組公演大千秋楽ライブ中継」の会場であるイオンシネマへ。開演の15分前に売店へ行ったら、中継会場限定のパンフレットが売り切れていた。そんなことある?10冊くらいしか仕入れてなかったりします?座席は完売してるのに?ちょっとしたボディブローを受けながらも、座席に座る。それからはもう、あっという間だった。『fff』も『シルクロード』も、最高だった。これを書いている今も、心が落ち着いていない。帰宅して、スカイステージで放送されている『ファントム』を流してはみたものの、なんだか直視できなくてすぐにチャンネルを替えた。望海風斗・真彩希帆がいない宝塚、思っていたよりも寂しいかもしれない。しかし、卒業されたみなさん、本当にお疲れ様でした。退団者が、退団当日にしか見せない、あのすがすがしい美しさに心を打たれます。

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写真がヘタ

 

感想:花組公演『アウグストゥス─尊厳ある者─/Cool Beast!!』 (後半は批判的な文章になっています)

 

 花組トップスター・柚香光の2作目、そしてトップ娘役華優希のサヨナラ公演となる『アウグストゥス─尊厳ある人─/Cool Beast!!』が幕を開けた。

 『アウグストゥス』は田渕大輔氏によるオリジナル作品で、古代ローマ帝国初の皇帝となったオクタヴィウスを主人公に、彼の歩んだ道のりをカエサルやブルートゥス、アントニウスクレオパトラとの対立など史実にフィクションを織り交ぜて描く歴史ドラマ。

 主演の柚香光が演じるのは「尊厳人」と呼ばれ民衆の尊敬を集めたオクタヴィウス。若くして大叔父のカエサルにその才能を見出され、わずか19歳にして後継に指名されたオクタヴィアヌスの苦悩や溢れる人徳を表現することは難易度の高い要求だったと思われるが、入団後早くから大役をつとめ男役街道をまい進してきた柚香の持つ雰囲気や独特な魅力が相まって、ベストなパフォーマンスを披露していた。対して華優希が演じたのは、今は亡き父・ポンペイウスの仇を取らんとカエサルに切りかかるポンペイア。相手役である柚香と直接会話をしたり絡んだりする場面は少なかったが、言葉だけではない繋がりのようなものを上手く表現していた印象がある。『ポーの一族』でのメリーベルや、『A Fairy Tale』でのシャーロット役で培った経験が活きたか。華と同じく今作が退団公演となる瀬戸かずやも素晴らしかった。野心あふれるアントニウスは、カエサルの死後オクタヴィウスとの対立を深め、エジプトと結託しローマと対立する。その中でエジプト女王クレオパトラと通じ合い結ばれるが、クレオパトラ役の凪七瑠海と見せた芝居の密度の高さは、二人がここまで積み上げてきたものをありありと見せつけるものだった。長年に渡って花組を支えた男役・瀬戸かずやの最後に相応しい舞台さばき。冴月瑠那も今作が退団公演で、クレオパトラに使えるシャーミアンを演じきっていたものの、ファンとしては「ダンスの花組」を担った花男の最後が娘役ということには一抹の寂しさを感じてしまった。オクタヴィウスの右腕アグリッパを演じた水美舞斗、カエサルを暗殺するブルートゥス役の永久輝せあも安定感のあるパフォーマンス。そして音くり寿はオクタヴィウスの妹であり、アントニウスの妻であるオクタヴィアを演じたが、要所要所で見せる演技や歌唱力は流石の一言。この数年、花組の娘役は激動の中にあり、今作でも美花梨乃・更紗那知・澄月菜音が退団するが、これからの花娘を支える存在として期待がかかる。

 『Cool Beast!!』は、柚香光が本公演で初めて演じるショー作品。藤井大介氏作・演出の、柚香が持つ野性的な魅力に焦点を当てている。専科の美穂圭子や、羽立光来に和海しょう、音くり寿といった面々が要所を締める歌唱を披露しつつ、柚香や水美といったダンサーたちが獣に扮して踊る、宝塚らしい、そして藤井氏らしいショーだった。飛龍つかさなどとともに若手男役の中心メンバーだった綺城ひか理が星組に異動したことで生まれた空席には、バウホール公演初主演を果たした聖乃あすかが座った印象。銀橋でのソロもあり、フィナーレのパレードでも中心から降りてきていた。花組生としては初めてのショーとなった永久輝の活躍も目立つ。歌にダンス、ロケットボーイにエトワールと、八面六臂の活躍とはこのことだろう。雪組時代に培った経験と「花組らしさ」を上手く融合させていたように思う。

 

   

 

 ここからは、率直な感想を書きたい。「悪いことを言うくらいなら書かない」という個人的な信念のもとで宝塚歌劇団に関する記事を書いていたけれど、今回の『アウグストゥス/Cool Beast!!』に関しては、そういった部分についても言及しなければならないように思う。いや、言及したい。言及するべきとかするべきではないとか、そういう普遍的な価値観ではなくて、これは私がただ単純に「言及したい」から書く批評になるため、「好きなものが悪く言われているだけで気分が良くない」とか、「結局すべては好き嫌いという個人の感想なのだから悪口を言うべきではない」とか、そういう考えを持っている方には、ここから先を読むことはおすすめしない。ご了承いただきたい。「ただのファンが劇団の運営方針に口出しをするな」「嫌なら見るな」という意見にも一理あることは、分かる。それでも、今作の柚香光と華優希のパフォーマンス、引いてはこの二人にそんな演出をつけたスタッフ、それを是とした劇団に、多少の不満の書く。

 『アウグストゥス』はともかくとして、『Cool Beast!!』での振付け、演出がまったく好みではなかった。柚香光・華優希というトップコンビに関して率直な意見を言うと、ふたりは相性の良いコンビではないと思う。芝居は別にして、ショー作品での相性に関しては「悪い」と個人的に感じている。柚香のストロングポイントは何と言ってもダンスだが、華は明らかにダンスが弱い。何かケガをしているとかそういう事情があるのなら申し訳ない意見になるが、「踊れない」。これは前々作の『シャルム』でも明らかだった。いやそもそも、彼女はダンスを武器にしてトップになった娘役ではない。これはここ数年の花組を見ていた人なら分かると思う。彼女の強みは芝居にある。そんな彼女に対してスタッフ陣が下した決断は「踊らせない」というものだった。もちろんこれは推測の域を出るものではないが、『Cool Beast!!』の演出を見るに、そう思わざるを得ない。彼女が出演する場面では、そうではない場面と比べて明らかに振り付けの方向性が変化していた。振りのバリエーション、手数の少なさ。「トップ娘役は踊らなければならない」と私が思っているわけではない。ダンスが得意ではないトップ娘役など、今までも大勢いた。しかし、それでもある程度はダンスの場面はこなさなければならない。『シャルム』ではまだ彼女がソロを歌いながら踊る場面もあった。けれど、今作では『シャルム』よりも明らかに減っている。減らされている。トップ娘役のサヨナラを、”華優希”の最後を、劇団がそういう風に扱っていいのか?ダンスが得意ではないことなど劇団は分かっていたはずなのに、最後にトップ娘役に対して何かを諦めたかのような演出をつけていいのか?華優希本人に対してではなく、演出や振付に対しての憤りがある。「華優希は踊らせない」という演出方針で、割を食うことになったのは他ならぬ柚香だろう。先述したように、彼の最も魅力的な部分はその独特なダンスにある。語弊を恐れず言えば、柚香は群舞のセンターが映えるダンサーではない。彼の踊りは特殊で、教科書的ではない。提示された振り付けをそのまま踊るのではなく、どうやったら自分が格好良く見えるか、どう踊れば自分の持つ魅力が引き立つかを考えて、すこしアレンジを加えているような印象がある。具体的に言えば、その長い手足が映えるように振りの始点と終点を意図的に周囲とずらすなど、そういうアレンジをするのだ。それ自体は好みの問題だし、自らの魅力と誠実に向きあわければならない分難易度も高くなり本人の負担も大きくなるから、良いとか悪いの問題ではない。しかし結果的に、その方向性の踊りを群舞のセンターで披露すると、「柚香光が周囲とずれているように見える」ことがあるのだ。今作のシーン22「エトプティム・ソムニウム」、フィナーレの男役群舞でもそう見える瞬間があった。周りが合わせなければならないと言われればそれまでなのだが、いかんせん柚香の異次元のスタイルの良さがそれを邪魔している。彼の踊りがもっとも美しく、カッコよく見えるのは完全にソロで踊るか、ダンスに秀でた娘役と組んでいるときだろう。『CASANOVA』のフィナーレのように。では『Cool Beast!!』ではどうだろう。シーン8「ナイトライフ」で水美率いるグループとのダンスバトルでは柚香の野性味が上手く引き出されていたように思う。しかしシーン5「テラ・インゴニスタ」やシーン23での華とのデュエットダンスでは、柚香の強みは出ていなかった。「華が踊れないから」だけではない。「デュエットダンスそのものの時間が明らかに短いから」だ。作品を通して、柚香と華が組んでいる時間は極端に短かった。そして、「柚香と華だけが舞台に立っている時間」は、もっと短かった。シーン5は作品冒頭であるから別にしても、フィナーレのデュエットダンスでも美穂と凪七が大階段で歌っていたため、「トップコンビ二人の時間」はほとんどなかった。これでは柚香が華を引っ張って踊ろうにも、物理的に踊ることが出来ない。的確には表現できないが、「柚香光・華優希というトップコンビの最後がこれでいいのか」という思いがぬぐえない。宝塚の代名詞であるショーで、なおかつ柚香・華による本公演唯一のショーで、トップコンビの時間をこんなにもあっさりとした形で終わらせていいのか。私は決して華優希という娘役がショースターだったとは思わないけれど、今作の演出を見ると、劇団が梯子を外してしまったように感じてならない。

 

望海風斗・真彩希帆の退団によせて

 宝塚歌劇団雪組のトップコンビ、望海風斗・真彩希帆が2021年4月11日の『fff─フォルティッシッシモ─/シルクロード~盗賊と宝石~』東京宝塚劇場公演千秋楽をもって退団する。男役・望海風斗と娘役・真彩希帆。宝塚歌劇団の歴史に大きな足跡を残したふたりに、終わりの時が迫っている。

 望海風斗は、正統派のトップスターではなかったように思う。圧倒的な歌唱力が他の追随を許さない領域に至っていたことは明白で、2020年の『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』で見せた演技力も素晴らしいの一言に尽きる。しかし彼の経歴を見るとやはり、望海風斗はユニークなトップスターだと思わざるを得ない。

 2003年、89期生として宝塚歌劇団に入団、花組に配属された望海風斗が一番初めに注目を集めたのは、2005年に蘭寿とむ主演で上演されたバウホール公演『くらわんか』で「貧乏神」を華形ひかるとの役替わりで演じたことだろう。和物、そして矢継ぎ早に繰り出される大量のセリフが特徴の難しい作品ではあったが、彼はこの「貧乏神」で観客に確かな印象を残した。今や押しも押されせぬトップスターになった望海風斗の初めて役名のついたキャラクターが「貧乏神」*1というのは、なかなかに面白いものがある。以降2009年の『太王四神記』で新人公演初主演、2010年のバウホール公演『BUND/NEON』『CODE HERO』両作で見せた朝夏まなととのコンビネーションなど、彼は男役の宝庫であった花組の中で徐々に存在感を増していった。そして「男役・望海風斗」が確立されたのは、蘭寿とむがトップスターに就任してから演じた数々のキャラクター、例えば『オーシャンズ11』のテリー・ベネディクトや『ラスト・タイクーン』のブロンソン・スミスといった、いわゆる「宝塚らしくない」キャラクターではないだろうか。気持ちの良い悪役であるベネディクトを軽快に演じるパフォーマンスは素晴らしく、蘭乃はな演じる恋人のミナに暴力をふるうブロンソン・スミス役では真に迫った演技を見せ、それまでにはない魅力を醸し出すようになった。そんなとき、大きな転機が訪れる。2014年の『エリザベート』を最後に、彼は雪組へと組替えをすることになったのだ。当時のトップスター・早霧せいなの下で望海風斗は男役としての確固たる地位を築き、無二の魅力を磨き上げていったように思う。主演を務めた『アル・カポネ』のタイトルロール、『星逢一夜』の源太役で培った経験は、2016年の『るろうに剣心』で爆発した。大ヒット漫画が原作となった作品の中で彼が演じたのは加納惣三郎という、原作には登場しない宝塚歌劇版オリジナルのキャラクターだった。原作物や、史実を下敷きにした作品では、元になったものが有名であればあるほどオリジナルキャラクターを演じるハードルは高くなる。ましてや『るろうに剣心』で望海風斗にのしかかったプレッシャーは、主人公の緋村剣心を演じる早霧せいなが感じたそれとは別種のものだっただろう。しかし、彼の見せたパフォーマンスは素晴らしかった。

「いいんですか、斎藤さん」

 人質を取って逃げようとする加納惣三郎が斎藤一に言った、短いセリフ。この短いセリフに現れる、言いようのない痺れ…。そしてフィナーレ冒頭のソロ…。劇場での衝撃を今でも覚えている。同年の『ドン・ジュアン』も、彼のベストパフォーマンスに数え上げられる公演だ。そして2017年、早霧せいなから羽根を引き継ぎ、雪組トップスター・望海風斗が誕生した。以降彼は2021年の退団まで、およそ10本の作品で主演を務めるのだが…ここで話題を戻したい。冒頭で「望海風斗はユニークなトップスターだった」と述べた。それはなぜか。「死ぬ役が多かったから」とか「ギャングの役が多かったから」とか、もちろんそれもあるけれど、端的に言えば「これほどまでの歌声を持ちながら、その歌声に固執しなかったから」だと私は思っている。もちろん2018年の『ファントム』では歌が重要な要素だったが、主人公エリックのイノセントな部分とそれゆえの狂気を所作や立ち居振る舞い、表情で的確に表現していた。より厳密な言い方をすれば、「声以外の方法で感情を伝える」ことが非常に上手かった。2019年の『壬生義士伝』、吉村貫一郎役でのパフォーマンスもそうだった。『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』は、男役・望海風斗の到達点だと言っていいだろう。主人公ヌードルスの少年期・青年期・壮年期のすべてをひとりで演じ切ってみせた、あの演技力。第一幕最後の場面は語り継がれる名シーンだ。そんな望海風斗が宝塚人生最後に演じるのが「聴力を失った音楽家」であるベートーヴェンというところに、それこそ「運命」のようなものを感じてしまうのは、ファンの性だろうか。

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『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』第一幕、最終場面

   

 ──「歌だけではない魅力を」、「声に頼らない演技を」。望海風斗の在り方に最も強く導かれたのは、他ならぬ相手役、真彩希帆だろう。彼女もまた唯一無二の、そして「異色」のトップ娘役だった。2012年、98期生として宝塚歌劇団に入団後花組に配属された彼女は、すぐに頭角を現した。組回り中に出演した星組公演『宝塚ジャポニズム』ではカゲソロを任され、2014年の『ラスト・タイクーン』新人公演では仙名彩世が本役を務めたエドナ・スミスを演じている。そして、本公演の舞台で真彩希帆が注目を集めたのは2014年の『エリザベート』だろう。彼女はエリザベートをお世話する美容師役を演じ、その歌声で一躍脚光を浴びた。

『卵の白身にコニャックを3杯』

 たったこれだけの短い歌唱ではあったが、彼女の実力は誰が見ても分かるものだった。明らかに、歌声が違うのだ。傑物。すごい娘役が誕生したんじゃないか。そう思わせる一瞬だった。『エリザベート』の新人公演で演じた難役マダム・ヴォルフでパフォーマンスも素晴らしかった。そんな彼女が組替えで星組へ異動することに驚いた人は少ないだろう。いわゆる「路線」に乗っている娘役に組替えは付き物だ。組替えは劇団からの期待の表れでもある。そして真彩希帆は、その期待に見事に応えた。『鈴蘭』『燃ゆる風』での二度のバウ公演ヒロインに、『こうもり』での新人公演初ヒロイン。そして当時の「真彩希帆らしさ」とでも言うべきものが最も如実に出ていたのが、2015年『ガイズ&ドールズ』の新人公演だと個人的には思っている。本公演では礼真琴が演じたアデレイドはセリフとナンバーが多く、カロリーの高い役どころ。本役のコピーになりがちな新人公演ではあるが、本役とはまったく違ったアデレイドを彼女は提示してみせた。ダンスや立ち姿に男役的なしなやかさを見え隠れさせる礼真琴のアデレイドに対して、彼女は声色や発話の仕方で味付けし「ギャンブル狂のボーイフレンドと14年も婚約したまま」という浮世離れしたアデレイドに説得力を持たせた。なにかのインタビューで「ミニーマウスの喋り方を意識しました」と語る彼女を見て、思わず膝を打ったことを覚えている。その発想力と、それを実現して舞台に表現する実力。

 宝塚歌劇団全体でも存在感を増し始めていた真彩希帆は、再び組替えを経験することになる。ほどなくして、咲妃みゆの後任として雪組トップ娘役に就任することが発表された。すでに圧倒的な声と歌唱力を持っていた彼女の相手役は、望海風斗だった。ファンは沸き立った。この二人は一体どんな作品を見せてくれるのだろうと。一体どんな歌声で、劇場を沸かせてくれるのだろうと。そんな二人のプレお披露目公演は、何度も上演されている宝塚の名作『琥珀色の雨にぬれて』だった。一次大戦後のフランスを舞台に、貴族の青年と二人の対照的な女性との三角関係を描く古典的な作品は、意外なほど二人にマッチしていた。続く大劇場お披露目公演は『THE SCARLET PIMPERNEL』などの作曲を手掛けたフランク・ワイルドホーン氏を迎えた『ひかりふる路』と、『SUPER VOYGER!』。望海風斗・真彩希帆ここにありとでも言うような二人のパフォーマンスは素晴らしく、特に『ひかりふる路』終盤の「葛藤と焦燥」で見せた掛け合いは圧巻だった。しかし、この作品で真彩希帆はトラブルに見舞われる。宝塚大劇場での公演期間途中で、彼女は喉を潰してしまったのだ。公演に穴をあけるような事態にはならなかったが、自らの代名詞である「声」を失った彼女の苦悩は、想像するに余りある。だが、真彩希帆は決して折れなかった。むしろ彼女は最大の武器である「声」を一度捨てることで、新たな武器を手にして再び舞台に戻ってきた。轟悠を主演に迎えた『凱旋門』で演じたジョアン・マヅーが上手から舞台に登場したときのことを、鮮明に覚えている。ただ歩き、ただ立っている。最初のセリフを発するその前に、ジョアンが考えていること、ひいてはジョアンというキャラクターそのものが伝わってきたのだ。真彩希帆がまったく別次元の役者になったのだと思った。そしてこの作品以降、彼女は「異色」のトップ娘役へと変化していく。

 スターシステムを採用している宝塚にあって、特にトップスターとトップ娘役に求められるのは「その人らしさ」だろう。極端な言い方をすれば、どんな役であろうが「誰が演じているか」が重要視される。観客が求めるのは「トップスター」で、かつ「その人」が舞台に立つ姿だ。しかし『凱旋門』以降、真彩希帆は確実にその逆を進んで行く。平易な言い方をすれば、「真彩希帆感」を極限まで薄くしていった。「声」、あるいは「歌声」という自らの武器を一度捨てたことで、彼女は「真彩希帆らしさ」から脱却する。捨てたと言ってもいいかもしれない。演じるための器とでも表現すべき彼女の新たな表現力が分かりやすい形で発揮されたのが『壬生義士伝』で挑んだ、「しづ」と「みよ」の一人二役だろう。トップ娘役が本公演でしっかりした一人二役を演じるということ自体が珍しいものの、真彩希帆は振り幅を広げた表現力でしっかりと演じきってみせた。「声だけではない武器」を彼女が手に入れることが出来たのは、言うまでもなく望海風斗の存在があったからだろう。新たな武器を手に入れた彼女が臨んだ『ファントム』で見せたパフォーマンスは圧巻の一言だったが、やはり真彩希帆が培ってきたものが最大限に発揮されているのが退団公演である『fff』。「謎の女」という、匿名性に包まれたこの役をトップ娘役として演じることは、トップ娘役でありながら「自分らしさ」「真彩希帆らしさ」を自ら剥いでいった真彩希帆でなければ不可能だった。

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凱旋門』、ジョアン・マヅー

 最後に、劇団が「屈指の歌声を持つ」と称した望海風斗・真彩希帆の印象的な場面をいくつか挙げて終わりにしたいと思う。まずは『ファントム』のすべて。次に、先ほども言及した『ひかりふる路』での「葛藤と焦燥」。最後に、『Gato Bonito!!』での「コパカバーナ」。もちろんこれ以外にもたくさんの名場面があるが、キリがないのでこれくらいに。

 そして、2019年の『20世紀号に乗って』がいつか映像化されることをひとりのファンとして願ってやまない。

 

maholo2611.hatenablog.com

 

*1:新人公演を除いて