感情の揺れ方

それでも笑っていたい

坂元裕二脚本『大豆田とわ子と三人の元夫』第1話

 

  坂元裕二によるドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の放送が開始された。『カルテット』『スイッチ』といった坂元作品での活躍が記憶に新しい松たか子を主演に迎え、タイトルにある「三人の元夫」には松田龍平東京03角田晃広岡田将生という豪華な面々がキャスティングされている。ともすれば演者にばかり注目が集まりそうなところではあるがそこはやはり坂元裕二で、第1話にして傑作の予感に満ちた作品になっていた。テレビドラマならではの絶妙な会話劇と、徹底した演出に画面の色調補正、見た者の日常にちょっとしたトゲを刺すような言葉の数々。

 「今ここ」には存在しないなにか……例えば過去や未来といったものの記憶や気配が、「今ここ」いる人たちに影響を及ぼす。それは奥歯に挟まった朝ご飯のゴマであり、また唄(豊嶋花)と綿来かごめ(市川実日子)が興じる囲碁は恐らく一人目の元夫・田中八作(松田龍平)の影響で、第1話を貫くのは三人の元夫の誰かが設定したPCのパスワードを解除するための「秘密の質問」だ。大豆田とわ子はそのすべてに振り回されながらも、幸せになろうとすることを諦めない。

「まぁ、色々あるさ。(中略)どっちか全部ってことはないでしょ。楽しいまま不安、不安なまま、楽しい…」

 人間は複雑な、さまざまな面を持つ生き物だ。生まれたときから反抗期の娘はすくすく育っているし、初めこそ腰が低い二番目の元夫・佐藤鹿太郎(角田晃広)は他人の家ですぐに靴下を脱ぐし、機嫌の悪いギャルソンは実は良い人。なにかひとつがその人の全部ということはない。食事シーンの多さも、第1話の印象的なところ。食べるということはもちろん生きていくことだ。サンドウィッチを三番目の元夫・中村慎森(岡田将生)に目の前で奪われても、差し入れのカレーパンが自分のところにだけ回ってこなくても、お弁当の醤油が白い服にかかってしまっても、とわ子はしっかりと食事をとる。いや、登場人物の全員がしっかりと食事をとる。結婚式の引き出物であろうバウムクーヘンを歩きながら鷲掴みにして食べるとわ子の姿なんか、最高と言うほかない。『最高な人生のはじまりを見つける幸せなパン』というタイトルの映画をとわ子が見ることはなかったけれども、PCのパスワードを変更し、ずっと自分のそばに置いていた亡き母の位牌をしっかりと墓に収めた彼女の生きざまに、期待をしてしまう。