感情の揺れ方

それでも笑っていたい

感想:花組公演『元禄バロックロック/The Fascination!』

 宙組トップ娘役として活躍し、専科を経て花組トップ娘役に就任した星風まどかの大劇場お披露目公演となる『元禄バロックロック/The Fascination!』が幕を開けた。『元禄バロックロック』の作・演出を務める谷貴矢氏の大劇場デビュー作でもある。2016年花組バウホール公演『アイラブアインシュタイン』で演出家デビューを果たした同氏の演出は、2018年の『義経妖狐夢幻桜』、2020年の『出島小宇宙戦争』などにもみられるような、「現実」と「ファンタジー」を織り交ぜた独自の世界観を作り上げることに特徴がある。今回の『元禄バロックロック』は華やかな国際都市「エド」を舞台に、元禄時代に起きた「忠臣蔵」物語を下敷きにしたエンタメ感あふれるファンタジー。時間を巻き戻す時計を使ったタイムリープなどのSF要素も取り入れ、非常に「キッチュ」な仕上がりとなっている。しかしそのキッチュさと宝塚が連綿と受け継いできたノウハウが反応し、非常に上質なエンターテインメント作品が生み出された。

 この「ごちゃ混ぜ感」を破綻させることなくひとつの作品として成立させることが出来ているのは、演出家はもちろん個々の演者によるところも大きいだろう。個人的に印象的だったのは、物語の鍵を握るヒロインであるキラを演じた星風まどかと、こちらも結末に関して大きなポイントとなるツナヨシを演じた音くり寿。男役となる将軍徳川綱吉──登場人物は実在・非実在を問わずほとんどがカタカナ表記となっている──を演じることは音くり寿にとって難しい挑戦だったと思われるが、円熟味を増している彼女のパフォーマンスは見事で、まだ年若い将軍の幼さと生まれ持った凄味の両方を的確に表現していた。一方の星風まどかは謎めいた賭場の主キラが持つ独特の寂しい雰囲気をその体にまとわせていて、素晴らしいの一言。

   

 そして主人公の元赤穂藩士で時計職人、クロノスケを演じた柚香光だが、語弊のある言い方にはなるものの、見違えるほど成長している印象を受けた。トップスターが板についてきたというか、今までとは打って変わって伸び伸びとキャラクターを演じ、堂々とした舞台さばきを見せている。クロノスケという人物、『元禄バロックロック』という世界観が柚香光という演者に上手くマッチしているのかもしれない。これからを期待させる舞台姿だった。赤穂藩士の宿敵コウズケノスケを演じた水美舞斗にも言及したい。彼もまた成長著しく、悪役が板についてきた雰囲気がある。華雅りりかがリク役で見せた怪演も見事だったが……これは実際に見てもらいたいので詳しい言及は避ける。

 中村一徳氏によるショー『The Fascination!』は花組誕生100周年を記念した作品。「ダンスの花組」であるだけに、柚香・水美というダンサーを中心にしたダンシング・ショーとなっている。そのため前回のショー『Cool Beast』とはかなり雰囲気を変え、華やかなダンス・シーンをメインに今までの花組が披露してきた名曲のメドレーなどによって構成されていた。ダンスだけでなく星風や音、羽立光来や和海しょうの美声を楽しむことが出来る場面も多く、魅力に溢れた作品。この数年花組は娘役の退団が相次ぎ、ファンながらに大丈夫だろうかと不安になっていたが、今までとは違った顔ぶれの娘役が見せるパフォーマンスは花組の将来を感じさせるものだった。『元禄バロックロック』で重要な役どころを任されていた星空美咲・美羽愛のふたりはショーでも目立つ場面が多く、劇団の期待を思わせる。「両雄並び立たず」は、男役だけでなくむしろ若い娘役の場合において顕著だが、二人の切磋琢磨を祈るばかりだ。