感情の揺れ方

それでも笑っていたい

2007年月組公演『パリの空よりも高く』~愛すべきペテン師たちの物語~

 2回目となる万国博覧会の開催を前にした花の都、パリ。万博の目玉となる建築物「エッフェル塔」の建設には賛否両論が渦巻いていたが、その中心にはある人物が──ペテン師たちが、いた。

 菊田一夫の名作『花咲く港』を下敷きにした『パリの空よりも高く』は植田紳爾によるコメディ作品である。完成当時世界で最も高い建築物だったパリのエッフェル塔は今やパリという街そのものの、そして自由・平等・博愛の象徴となっている。だが『パリの空よりも高く』においてエッフェル塔が象徴するのは、人々の「夢」だ。

パリの空よりも高く パリの空よりも高く 夢を描け

 そして夢とは、人間の意思である。上述したように、物語の舞台は万博が2年後に迫ったパリ、そしてかつて隆盛を極めたが今や閑古鳥が鳴くホテル・ド・サン・ミッシェル。そこには2人の──いや、3人のペテン師たちが滞在していた。ペテン師の兄弟(本当のところは分からない)アルマンドとジョルジュは万博の盛り上がりに乗じて一儲けの機会を狙っている。そんな二人の耳に飛び込んできたのは、同じホテルに滞在しているギスターブ・エッフェルという建築士の掲げる、「世界一高い鉄の塔を建てる」という計画だった。これを好機と見たアルマンドとジョルジュは建設費用の名目で人々から資金を集め、それを持ち逃げしようとする。しかし話は2人の予想とは違う方向に進んでいく。「世界一高い塔を建てる」というエッフェルの夢に触発された人々の熱意によって、計画は現実味を帯び始めるのだった。夢、意思、過去。エッフェル塔という「今ここにないもの」に突き動かされて、人々は動いていく。『パリの空よりも高く』は人間の意思の物語であり、3人のペテン師たちの物語である。アルマンドとジョルジュ、そしてギスターブ。兄弟は結局最後までエッフェル塔建設に尽力し、最後まで「ペテン師」としての矜持を全うする。たとえ帰りの電車賃すら稼げないとしても、愛する人との別れを選ぶとしても。エッフェルは石畳の街に鉄の塔を建てるというある種のペテンを現実のものとする。3人の原動力は同じ、「今ここにないもの」なのだ。アルマンドとジョルジュは、前回のパリ万国博覧会を成功へと導いた亡き父(少なくともジョルジュの)ジュリアン・ジャッケの名声と、人々の抱くエッフェル塔の夢に。ギスターブは名セリフ「建つのではなく建てるのです」に象徴される自らの夢と意思とに。「今ここにないもの」というテーマは一貫していて、ジュリアン・ジャッケという人がパリを去ってからの人生や、初めは兄弟のことを疑っていた議員のレオニードが2人を心から信頼するきっかけとなった嵐の夜の出来事も、直接的に描かれることはない。しかしその後の「変化」をしっかりと描くことで、エッフェル塔ひいては夢・意思といった存在の持つ力を強調している。

   

 展開が速く、セリフの多い作品ながら軽やかで爽やかなコメディに仕上がっているのは演者の力と演出のなせるものだろう。冒頭は板付きのショーというあまり見ない幕開けだが、この場面があることで続く「ホテルのロビーでメイン人物なしの状況説明」をする場面との緩急が生まれ、登場人物の関係が分かると同時に作品へ引き込まれる。ロビーと兄弟の客室の舞台転換が上下移動によって行われるのは、「空」と「地上」を繋ぐエッフェル塔のメタファーだろう。そしてなんと言ってもアルマンド・ジョルジュ・ギスターブを演じる瀬奈じゅん大空祐飛霧矢大夢の3人が本当に上手い。瀬奈と大空の畳み掛けるような掛け合いは「兄弟」としてのバックボーンを想像させるには十分なものだし、気弱な部分と鉄の意思を持ち合わせる難しく重要な役どころの霧矢は流石のパフォーマンス。特に終盤、竣工式当日のホテルと、完成したエッフェル塔を遠くに眺めるサクレクールの場面は素晴らしい。

 瀬奈じゅんというトップスターはもちろん、大空祐飛霧矢大夢龍真咲・明日海りおという未来のトップスター4人が奇跡的に揃ったこの作品が「夢」「今ここにないもの」を主題としているのは、おそらく偶然ではないだろう。

 

週間日記(2021/10/18~10/24)

 10/18(月):寒い。普通に寒い。日本から秋はなくなりました。気候変動にいよいよ感が出ている。朝の冷え込みがきつく、タオルケットではもうお話にならない。毎朝のシャワーが急にしんどい。命の危険が出てきた。ぼんやりと起きて、ぼんやりと朝ご飯を食べる。腹筋と喉に微妙な痛みがある。昨日、しゃべりすぎたのだろう。大学生みたいな朝だ。「ラヴィット」をチラ見したあと、録画していた「有吉の壁」を再生した。「バンクシーって誰?展」が舞台だったのだが、どうしてもバンクシーねぇ……みたいな気持ちになってしまう。バンクシーねぇ……。ただとにかくその分野に関する知識がなさすぎるので、時間を作って勉強する必要はある。そのあとは家のことに取り掛かった。「バナナムーン」を聞きながら、とりあえず掃除機をかける。洗濯物もする。半そでの衣類はもう出番がないだろうから、次のシーズンも着るであろうものを選び、洗う。気に入っているシャツは手洗い。衣替えをしてクローゼットの中を整理しようかと思ったが、いかんせん体力が続かず。引っ越しをするときは服を厳選しなければならない。物持ちが良い方なので困難を極めるだろう。その後は最寄りの書店へジャンプを買いに行った。寒い。長袖シャツが活躍する季節をすっ飛ばして、もうパーカーだ。『サカモトデイズ』は毎週毎週カッコイイ構図がある。現状好きな連載の上位。午後は勉強をしたり、作業をしたり。英語を読み、エントリーを書き。今年は試験で忙しい期間が長く、あまりブログの更新が出来ていない。一年で100本を目標にしているのだが、まだ達成されたことはない。今年こそはという気持ちはあるものの、かなり厳しそう。頑張ります。『ドン・ジュアン』のプログラムを読んでいたら、真彩希帆さんが宝塚時代に親知らずを抜いたその日に舞台に立ったという話をしていて、ぎょっとなった。規格外の人物だということは知っていたけれど……。夜は特になにもせず。寒いとより眠いので、早く寝たい。

 

 10/19(月):急激に寒くなりすぎたせいなのか、咳喘息の症状が出てきた。最悪と言う他ない。朝、目覚める前の体温が上がるタイミングで咳が出る。正直なところまだ自覚症状はほとんどないものの、家族から報告が上がってきた。嫌だなぁ。ものすごく嫌だなぁ。健康にとはいかないまでも健やかに生きたいのだが、こんなに難しいことってあるだろうか。難儀。寒いよと思いながら起きて、「ラヴィット」を見ながら朝ご飯を食べる。炊き込みご飯の素ランキングではもう中学生がファンタジーロケを炸裂させていて良かった。「◯き◯みランキング」、常人の発想では出ない。途中で切り上げて、早い時間から机に向かう。一日の勉強を英語から始めるのがなんとなくのルーティンになっている。どれだけ眠くても英文和訳は不思議と進められるからかもしれない。単純作業的な側面が強いから、ということもあるだろう。1時間とすこし読み進めて、仮眠を挟む。30分。足が冷たくてなかなか寝られない季節が来てしまった。憂鬱だ。今日は単純作業の一日になった。お昼から夕方まで、学部生のころに使っていたドイツ語の物理単語帳をアプリの単語帳に移す作業に没頭していた。文字通り「移す」、いや厳密には「写す」なので、表面にドイツ語裏面に日本語を打ち込む作業を繰り返す。BGM代わりにしていたのは「新 映像の世紀」。垂れ流していた。自分の無知が明らかになるタイプのコンテンツだ。10代のころの自分は本当に何も知らなかったのだなぁと改めて思う。怖くなる。「パリは燃えているか」ってそういう由来なんだとか、「これは訓練ではない」ってそうなんだとか。ナレーションしてる山田孝之の声、いいなぁとか。知ってしまった以上、向き合わなければならないことがある。「知らなければよかった」という態度は、少なくとも私の場合、忌避しなければならないものである。夜は特になにもせず。「マツコの知らない世界」を見たり、「世界ネコ歩き」をチラ見したり。単語帳の移行が結局終わらなかったので、それを終わらせてから寝たい。

 

 10/20(水):寒い。冬の風が吹いている。一年を通して気温が安定している地域に引っ越したいと思ってしまう。でもそういう場所にいると宝塚大劇場には気軽に通えなくなりそうなので、ダメ。昨日は寝る前に「映像の世紀プレミアム」を見ながら単語帳作業の続きを済ませた。だいたい500単語くらい。別の単語帳をだいたい覚えたうえで、読んでいる文章に出てきた分からない単語をまとめたものなので、だいたいこれくらいだろう。ここからどんどん増えていくのが理想だが、果たして。そんな時間があるのかどうかも含めて、果たして。「映像の世紀」はいわゆる無印と「新・映像の世紀」、それに「映像の世紀プレミアム」といろいろなバージョンがある。そしてNHKオンデマンドでも見られない放送回が多い。見たいなと思うものに限って配信していないというのが世の常だ。「世界を変えた女たち」「極限への挑戦者たち」「昭和 激動の宰相たち」などなど。一番見たいじゃん。ぼんやりと起きて、今日も「ラヴィット」を見ながら朝ご飯を食べる。見取り図の盛山、最近痩せたなぁと思っていたら本当に3ヶ月で10㎏以上体重が減っていたらしい。微妙に集中力のない一日だった。午前中はそれなりに英語を読むことが出来たのだが、午後はダメダメ。文学史を進める気にもならず。開き直って2007年の月組公演『パリの空よりも高く』を見た。一度スカイステージで放送しているのを途中から見て、その面白さが気になっていた。しっかりと最初から最後まで見ると、なおのこと面白い。これは非常に良い作品だなと思った。今度、エントリーを書きたい。夜も特になにもせず。「有吉の壁」は録画して「魔法のレストラン」を見ていたのだが、ふと「来年から見られないのかぁ」と感じたり。さらば関西ローカル、永遠なれ関西ローカル。TVerを使えば問題ないとか、そういうのはなし。郷愁の話をしています。今はBSで放送されている「シャーロックホームズの冒険」を横目にこの日記を書いている。今日も何かを見てから寝たい。やっぱり「映像の世紀」だろうか。

   

 10/21(木):やっぱり「映像の世紀」でした。正しくは「映像の世紀 PREMIUM」の「第14集 運命の恋人たち」。ボニーとクライドに始まりエドワード8世やゲッベルスグレース・ケリーエルトン・ジョンなど、その行く末が世界に影響を及ぼした恋愛の特集。イングリッド・バーグマングレース・ケリーの美しさったらなかった。エルトンのくだりでイギリスやアメリカにおけるLGBTの権利がどのように獲得されていったかにも触れていたけれど、日本のことを考えると暗澹たる気持ちになる。なんならヴァイマル共和国時代のベルリンの方が……なんてことも思う。今日も寒い。冬の空。選挙が近いのでそこらじゅうを選挙カーが走り回っているが、8:00になった瞬間爆音で演説を始める候補者は普通にうるさいのでやめて欲しい。どうにかならないものだろうか。本当に効果があるのか不思議に思ってしまうけれど、オンライン投票も満足に出来ない少子化の国ではそれなりに効き目があるのかもしれない。いやきっと、あるのだ。朝ご飯を食べながら「ラヴィット」を見る。もう中学生がゲストとしてスタジオに登場していた。お笑いというか、ファンタジーの人。エンディング直前でティラノサウルスに捕食されかけていた。本当なんです、信じてください。お昼前から外出。健康診断へ向かう母を病院まで送り届け、駐車場で待機。今にも雨が降りだしそうなどんよりとした空模様だったが、ついぞ崩れることはなかった。冬だ。その後は昼食を食べて、草津周辺で買い物。東急ハンズで毛抜きを新調したり、書店で雑誌を買ったり。ついにボールペン字の練習帳を買った。20代も後半、むしろ30歳が見えてきたこの時期、コンプレックスを潰しておく最後のチャンスではないでしょうか。自分の手書き文字を誰かに見られるのが本当に苦手で、ファンレターをしたためるのにものすごく勇気を振り絞る必要がある。あと就活をしていたときは手書きの履歴書が嫌いだったし、なんなら院試の解答を書くのも嫌だった。字を綺麗にするぞ。帰宅して、夕方にすこし寝た。姉が甥を連れて帰ってきていたので、生命の輝きに触れたりした。これから100年近く続く可能性のある生命のエネルギー、やっぱりすごいものがある。夜になんとなく見ていた「アンビリバボー」の再現ドラマに「帰宅したらクローゼットに下着ドロが隠れていた」というシーンがあったのだが、その泥棒役が「水曜日のダウンタウン」でよく立っているあの俳優だったので笑ってしまった。キャスティングに悪意があるよ。ほとんど作業を出来ていないので、もうすこし何かをしてから寝たい。

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美味しいラーメン

 10/22(金):肌寒く存じます。秋というか、冬というか。昨日は寝る前にやっぱり「映像の世紀」を見た。タイトルは「人類の危機」。第一次世界大戦とその後の講和会議にまで影響を与えたスペイン風邪(スペインで生まれたわけではないのに)と世界恐慌。こういう「教科書の裏話」みたいなものは面白い。もちろん面白がるためには教科書を読む必要があるわけで……。キューバ危機の顛末やチェルノブイリ原発事故をきっかけに、原子力について知れば知るほど「こんなものがあっていいわけないだろう」という気持ちが強くなる。あっていいというか、人間が触れるべきではないというか。「人間が完璧にオペレーションできれば大丈夫」みたいな前提のもと動いているシステム、冷静に考えると怖い。めちゃくちゃあるけれど。そこら中に。チェルノブイリが爆発した日のプリチャピを映したフィルムに感光した放射能が光ってたりマイクにぶつかった放射能が音を立てたりしているの、生々しさがすごい。今日もぼんやりと起きて、ぼんやりと朝ご飯を食べる。「ラヴィット」はオープニングトークまで見て、そこからは録画していた「有吉の壁」を再生した。シソンヌチョコプラ吉住。吉住の最悪ドッグトレーナー、普通に声が出るくらい笑ってしまった。その後は家のことに取りかかる。「ハライチのターン」を聞きながら掃除機をかけたり。ヤオキンがスポンサーに入ったとはいえ、岩井さんのフリートークがシンプルパチンコ話で笑う。午前中のうちから机に向かうことが出来たのは良かったものの、午後は集中力が出ず。今週はこういうことが多い。夕方に外出。かかりつけ医のところで、インフルエンザの予防接種を受けた。製薬会社は新型感染症ワクチンの製造に比重を置いているため、インフルエンザワクチンは製造量が減少している。今年はかなり早めに動き出さないと、接種の機会を得るのは難しくなりそうだ。夜は特になにもしていない。いまひとつこう、エンジンがかからない感覚が続いている。土日は予定が詰まっているので、来週からはちゃんと一日のノルマみたいなものを設定していきたい。リストを作って消していく、単純な作業をこなしていく必要がある。頑張るぞ。2021年も終わりそうだけど。

 

 10/23(土):寒い。日影に入ったときの北風がすごい。やる気満々の北風。西高東低冬型の気圧配置、等圧線の立て筋。ぼんやりと起きて、ぼんやりと朝ご飯を食べる。今週のクイズ王伊沢くんはユニバーサルスタジオジャパン。停電でいろいろなトラブルがあった直後の放送で、タイムリーが過ぎる。こういう事態は避けようがないけれども。テレビを流し見したあと、録画していた「ウォーキングのひむ太郎」を見る。今週は新宿。高層ビル群をものすごいテンションで眺めたり、東京の風景をことあるごとにニューヨークに例えたりしていて、楽しそうだった。これは千鳥にも言えることだけれど、一見なんでもないようことを面白がったり、逆にみんなが心の片隅で「おもしろくないな」と思っていることをはっきりと口にしたりするお笑い芸人はすごい。ここ最近のブレイクの鍵はそこなんじゃないかと考えることもある。なんでも面白がるじゃないけれど、そういう姿勢は人生を生きる上でも大事なんじゃないでしょうか。おそらくですが。午前中から外出。電車に乗って、宝塚へ向かう。おそらく最後になるであろう電車での宝塚大劇場遠征。遠征の範疇に入るのかな。3つ隣の県だし入るかな。到着して、とりあえずお昼ご飯。ソリオで台湾料理を食べる。台湾料理、好きです。台湾の夜市で食べた、何の肉かは分からない巨大から揚げ。大量のパクチーをぶち込んだスープ。海外旅行に行きたい。その後はキャトルで買い物をしたり歌劇の殿堂をぶらぶらして、開演の時間になった。二度目の『柳生忍法帖/モアー・ダンディズム』。演者のレベルというか、作品全体のクオリティが上がっていて良かった。天華えまさんの光が強くなっているというか、ものすごく目を引くようになっていた。すごい。公演期間中に成長する人は、すごい。終演後は近くのホテルに移動。チェックインして夕食を食べ、大きい温泉に入る。めちゃくちゃ良い週末。もうしばらくこういうこともないだろう。生活が変わることのエネルギー。早めに眠る。

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殿堂のドレス展示から。

 10/24(日):気持ちのいい目覚め。部屋の窓から武庫川を眺めると、河川敷をランニングしている人や犬の散歩をしている人がいる。誰もに素敵な朝が来ればいいのになぁと、本当に思う。そのままぼんやりと見ていたら、河川敷の芝生で遊んでいた子供たちがボールを思いっきり川に落として呆然としていた。子供はみんなボールを川に落とすものなのです。私も数え切れないほど落としました。野球ボールからサッカーボール、それはもういろいろなボールをびしょびしょに。服もびしょびしょに。美しい思い出です。ギリギリまでゆっくりしてからチェックアウトして、そのまま帰路についた。途中で寄ったコーヒー専門店でテイクアウトしたカフェラテが美味しかった。午後は特に何もせず。夜は「せっかくグルメ」と「イッテQ」を見る。あまり書くことがない。書くことがないときの恒例、バスケの話をします。NBAが開幕しました。「優勝以外は失敗」とも言えるロスターを揃えたのはネッツとレイカーズだが、両チームともあまり調子がいいとは言えず。ワクチン接種を拒否したことでカイリーが戦列を離れている影響が大きいのか、バックスとの初戦は敗北。しかしKDの奮闘がすさまじく、第2戦は逆転勝利。一方のレイカーズはここまで本当に最悪と言う他なく、プレシーズン全敗、開幕からも2連敗。ラスのフィットが待たれる。個人的に好きな選手がいるので応援しているブルズとグリズリーズは絶好調なので、レイカーズのグダグダっぷりには目をつぶれている。特に今シーズンのブルズはかなりいいところまで行くんじゃないだろうか。バスケの話、終わります。

 

劇評:ミュージカル『ドン・ジュアン』

 愛とはなにか?呪いである。このミュージカル『ドン・ジュアン』が描くのはさまざまな愛、それも決して美しいものではない、理性では分かっていても離れられないような、自らを焼き尽くすかのような愛である。日本での初演は2016年に宝塚歌劇団雪組で望海風斗が主演を務め、2019年には初演の演出を担当した生田大和氏が藤ヶ谷太輔を主演に迎えて上演された。そして今回、生田氏と藤ヶ谷太輔が続投し、ヒロインのマリア役を宝塚歌劇団退団後初の舞台出演となる真彩希帆が演じる形で再演されることとなった。

 舞台はスペイン、灼熱と情熱の街セビリア。快楽を追い求め「女と酒だけが俺を救う」と歌うドン・ジュアンはある日、偉大な男として知られる騎士団長の娘までも毒牙にかける。娘を汚された騎士団長は決闘を挑むが、勝ったのはドン・ジュアンだった。しかし騎士団長は亡霊となって彼を呪う。「愛が呪いとなる」と。ドン・ジュアンは導かれるように彫刻家のマリアと出会い、二人は愛し合う。マリアにはラファエルという婚約者がいたが、そんなことは関係がなかった。愛が、愛こそが呪いだからだ。しかし愛とは、狂気でもある。愛の狂気的な側面をこの作中で最も体現しているのは、「自分は彼の婚約者だ」とドン・ジュアンのもとを訪れる修道女エルヴィラだろう。「神の愛」に帰依する彼女もまた彼に魅了された女性のひとりであり、自らが「ドン・ジュアンの妻」となることで彼を「神の愛」に目覚めさせようとする。だが彼女の声は届かない。全く、これっぽっちも届かない。むしろドン・ジュアンがエルヴィラと言葉を交わす場面がほとんど存在しない。宝塚版と大きく違うのは、ドン・ジュアンの「孤独」が強調されている点にある。エルヴィラだけでなく、友であるドン・カルロやイザベルとコミュニケーションを取る場面も多くない。ドン・ジュアンがしっかりと会話をするのはマリアと亡霊、父親くらいである。本当にエルヴィラは婚約者で、カルロは友人なのかという疑問すら浮かんでくるが、彼の「孤独」を打ち破ったのはエルヴィラではなくマリアだった。それはおそらく、ドン・ジュアンが求めていたのは「神の愛」ではなく「母の愛」だったからだろう。名ナンバー「悪の華」で彼は歌う。「神が俺を捨てた」のだと。神を呪い、人を許すことが出来ないドン・ジュアンが「神の愛」を背負うエルヴィラを愛することなど、あるはずがない。マリアの腕に抱かれて眠るドン・ジュアンは愛を知ったが、結局最後まで彼は人を許すことが出来なかった。婚約者がいることを黙っていたマリアのことも、自分にマリアを奪われたラファエルのことも。

 

 ここからは個々の出演者にクローズアップしたい。まずは主役のドン・ジュアンを演じた藤ヶ谷太輔。普段はジャニーズのスターとして活躍する彼のダンスや殺陣、立ち姿には期待以上のものがあった。特に「目」が良い。悪徳の限りを尽くすドン・ジュアンを「目つき」で上手く表現していたように思う。あの「存在感」は流石の一言。マリア役の真彩希帆に関しては─語弊もあるとは思うが─圧倒的と言う他ない。歌、芝居、そもそもの「舞台の上に立つ」ということに関して、圧倒的だった。ともすれば観客からの共感が一切生まれないドン・ジュアン、そしてドン・ジュアンを愛するマリアだが、彼女の演技、表現を通してドン・ジュアンというキャラクターのパーソナリティは何倍にも膨れ上がっている。彼女がそれを可能にしている。退団後初めての舞台出演になる今作だが、おそらく彼女はミュージカルシーンを席捲するだろう。生田大和氏をもってして「私のミューズ」と言わしめる真彩希帆という舞台人のこれからが楽しみで仕方ない。騎士団長とその亡霊を演じた吉野圭吾、「アンダルシアの美女」として圧巻のダンスを披露した上野水香、イザベル役の春野寿美礼のパフォーマンスも素晴らしかった。熟練したそれぞれの技術が、作品全体を締まったものにしていた。ラファエル役の平間壮一がクライマックスの決闘で見せたキレのある殺陣も印象に残っている。物語を動かす鍵を握るエルヴィラを演じたのは天翔愛で、キラリと光るものをうかがわせるのは確かだが、とにかく「拙さ」が目立つ。まだまだこれからという俳優なので、将来に期待したい。ドン・カルロは「あのドン・ジュアンの親友」という難しい役どころで、上口耕平のパフォーマンスもその苦労を感じさせるものだった。すこしクセのある発話、歌唱が印象に残っている。

 

 

週間日記(2021/10/11~10/17)

 10/11(月):まだ微妙に暑い。週間天気予報を見ると週末からガクッと気温が下がるらしいので、早く週末になって欲しい。ぼんやりと起きて、ぼんやりと朝ご飯を食べる。「ラヴィット」を見ながら。MCの麒麟・川島が最近一番ストレスを感じた瞬間が「ラヴィット」の放送中らしく、笑ってしまった。スマートウォッチで計測できるストレス数値、ポジティブなものかネガティブなものかの分類は出来るのだろうか。ストレスってそもそも…みたいな話から始める必要がありそうなので、これくらいにしておきます。途中まで放送を眺めたあと、家のことに取り掛かる。掃除と洗濯。そういえば、自室に置いてあるものも整理しなければならないのだ。持っていくものと言えば本と服で8割を超えそうだが、一体どうなるだろう。まだまだ気が早い。考えるだけでいい。昼前にすこし外出。入学手続き用の証明写真を撮り、住民票を発行してもらう。最後にジャンプを買って帰宅。午後は作業をしながら、録画していたバラエティを流し見する。まずは「オールスター後夜祭」。旧満州の問題と神無月による伊藤美誠のモノマネが最高だった。「感謝祭」の方のギャガー芸人vs女優の名物コーナーを見逃したのが悔やまれる。その後は「千鳥の対決旅」。初回と第2回の放送では第7世代でくくられていた若手チームだったが、ついにEXIT以外はいわゆる第7世代ではなくなっていた。ブームの終焉みたいなものを感じる。夜は特に何もせず。「月曜から夜ふかし」のスペシャルをぼんやりと見ていたけれど、やっぱり一般人イジりと地域対立を煽るのがしんどくてやめてしまった。都道府県魅力度ランキングにしたってそうだが、一体誰が何の権限で、そして思想のもとであんなことをやっているのだろう。理解が及ばない。最下位まで発表する必要あります?あまりに眠いけれど、もうすこし作業をしてから寝たい。

 

 10/12(火):微妙な気温、天気。暑いような涼しいような。窓を開けて寝ているが、扇風機がないと寝苦しい。そのせいかは分からないが、変な夢を見て明け方に目が覚めた。サイコホラー映画みたいな夢だった。「サイコホラー」という単語を「結局人間が一番怖い」くらいの意味で使っているのですが、合ってますか。大丈夫ですか。得体の知れない人間に追いかけられて殺されそうになる流れだったけれど、殺人鬼がバスの窓を割って入ったきたところでちょっと面白くなって目が覚めてしまった。夢だと分かっても粘れるときと、そうでないときがある。「ラヴィット」を見ながら朝ご飯。オープニングトークが終わってからの1時間弱を「ハム」のランキングで乗り切るタイプの大喜利番組。すべって生放送のスタジオを飛び出そうとするアインシュタイン・稲田。午前中はぼちぼちと作業を進める。昨日途中まで書いた『007』のレビューを最後まで書いた。批評を書く筋肉が衰えている。明らかに衰えている。「研究」的なインプットとアウトプットを繰り返していたので、批評が書けない。これはもうゆるふわの感想です。まずもってそういう姿勢で観ていないということもあるけれど。午後はまた別の作業。入学手続きの書類を書き、封筒に詰める。めんどくささと今日のうちにやってしまおうという気持ちが戦った結果、後者が勝ったので最寄りの郵便局まで散歩ついでに歩いて郵送を済ませた。夕方から夜にかけても作業。今日は机に向かっている時間が長かった。夜は「バナナサンド」のスペシャルを見る。バナナマンサンドウィッチマン、千鳥という珍しい組み合わせ。バナナマンと関西出身の芸人がしっかり絡んでいるところがそもそも珍しいのだが、ここまで千鳥としっかりやりあっているところは初めてだった。日村さんが千鳥のふたりを呼ぶときの名前が安定せず、「ノブ」と言ったり「ノブくん」と言ったりで、良かった。ネクスダウンタウンとの呼び声高い千鳥とかまいたち。あながち間違いでもないなと思うくらいにはずっとテレビに出ている。その後は「マツコの知らない世界スペシャル。内容的に総集編かと思っていたら、しっかり撮りおろしだった。餃子とシュウマイの世界。餃子とシュウマイ、どっちが好きですかと聞かれたら、個人的にはシュウマイを選ぶと思う。最近ものすごい勢いで店舗を増やしている餃子の無人販売滋賀県でも見るので「本気」の増え方です。もうすこし作業をしてから寝たい。

 

 10/13(水):暑くもなく涼しくもなく。室内で過ごす分にはこれくらいがいい。一歩も外に出ていない……。昨日は寝る前に学部の同期や先輩を交えて通話をした。来年からほとんどのメンバーが東京に集まることになるらしい。奇遇にも。だいたい人生の四分の一と思われる期間が過ぎて、同じ学び舎で過ごした人たちと東京でまた集合することになるのは面白い。それぞれがそれぞれの人生をしっかりと進んだ結果なので、なおさら。遅い時間まで話してから寝たので、午前中はめちゃくちゃ眠かった。「ラヴィット」もぼんやりと見ていたが、ゲストのあのちゃんが大喜利をぶん回し、ほとんどくっきー!みたいになっていたので目が覚めた。あのちゃんってああいう感じなんですか?オープニングの不安をぶっとばしていたんですが。昼前から夕方まで、途中で仮眠を挟みつつ机に向かった。試験が終わったら時間いっぱいあるしやりたいことやるぞ~なんて思っていたのだが、甘い考えだった。やりたいことはもちろんやらなければならないことも多すぎる。なんなら専門科目と外国語の勉強だけしていればよかった分、試験前の方が気持ちは楽だったかもしれない。自分でスケジューリングをして、それに沿わなければならないので大変だ。面白さもあるけれど。古文の語彙を忘れるのはもったいないし、英語とドイツ語もやっておいた方が良いし、文学史は世界と日本の両方をさらっておく必要がある。ここまでは勉強。あとは小説を読み映画と演劇を見て、感想を書く。小説は書く方もやらないと。個人的にはボールペン字と絵の練習もしたい。時間がなさすぎる。プライムのウォッチリストをゼロにする旅もあるのに。夜はぼんやりと過ごして、BSで放送されている「シャーロックホームズの冒険」を見た。髪をおろしているホームズがハンサム。タカラヅカニュースでは月組博多座公演の初日映像が放送されていた。月城かなとさんがカッコよくて、普通に「あ~かっこいい」という声が出た。そして音彩唯さんの首が長すぎる。もうすこし作業をするか、なにかをしてから寝たい。

   

 10/14(木):ちょうどいいくらいの気温。去年はこれくらいの気温が少なくとも2週間くらいはあったような気がするけれど、今年は1週間もなさそうだ。日曜日からは11月の気温になるらしい。気温調整担当に新人がついている。昨日は寝る前にプライムで『オッドタクシー』を見た。Twitterで話題になっているのは知っていたのだが見る時間がなく。ようやく見始めた。めちゃくちゃ面白い。とりあえず1話だけ……と思っていたけれど、普通に第3話まで見てしまった。これはSNSで流行りますねぇという丁寧な造り。そして、噂にたがわぬダイアンのうまさ。ふたりとも上手い。意外な才能というか、技術というか。ぼんやりと起きて、「ラヴィット」を見ながら朝ご飯を食べる。ニューヨーク・嶋佐がついに引っ越し先を決めていた。プロレス、パチンコだけではなく、他局の番組までがっつりパロディするという攻めの姿勢。今日は昼前から姉が甥を連れて帰ってきたので、幼子と遊んでいたら夜になった。子供、元気。そしてあったかい。体温が高い。「子供体温なんだよね」という、ある種使い古されたワードをしっかりと肉体で感じる。大事なことです。百聞は一見に如かず。夜も適当に。今日は本当に進捗がゼロです。たぶん『オッドタクシー』の続きを見てから寝ます。

 

 10/15(金):『オッドタクシー』の続きを見てから寝ました。4話から8話まで。めちゃくちゃ面白い。ずっと面白いからすごい。何から何まで不穏。でもアニメじゃないと生み出せない雰囲気。いわゆる深夜アニメは久しぶりに見たけれど、Twitterで評判になっている作品はとりあえず見ておいて損はないかもしれない。今日もぼんやりと起きて、ぼんやりと朝ご飯を食べる。もちろん「ラヴィット」を見ながら。今日のランキングは日高屋だったけれど、これまた滋賀にはないチェーン店だ。滋賀どころか関東にしかない。在京キー局、「関東ローカル」という概念を頭に入れておいて欲しい。来年には食べる機会があるだろうか。シンプル中華そばが美味しいらしいです。今週は午前中から動くことが出来ない。「ラヴィット」を見たあとに二度寝を挟んでしまう。目が覚めたら午前はほとんど終わりを迎えている。良くない傾向だ。もっと早く寝ればいいのか、季節の変わり目が猛威を振るっているのか。お昼からはとりあえず英語のテキストを読み、作業をする。語学なんだから当たり前なのだが、英語の勉強に終わりはない。英語というか、勉強に終わりはない。そりゃ消耗するよという。今日も今日とて集中力があまりなく、夕方からは『オッドタクシー』を最後まで一気に見た。ひゃ~面白い。めちゃくちゃ計算して作られている。ラストシーンが良すぎて大きめの声が出た。本物の悪はお前だよ。夜は「ベストワン」のスペシャルをみつつパソコンに向かう。『オッドタクシー』に出ていた芸人がそれはもうぞろぞろと。ダイアン、ミキ。大門弟、かっこよかったぞ。頭も良いぞ。バカじゃない。今日も何かを見てから寝たい。インプットのスイッチがバチバチに入っている。

 

 10/16(土):陽向と日影の気温差が激しい。陽向残暑の日影秋。体調が悪くなる。昨日は結局TVerでバラエティを見てから寝た。「ゴッドタン」「トゲアリトゲナシトゲトゲ」「有吉クイズ」。それぞれ陽気なジジイ、コンプラメタ笑い、蛭子能収。「トゲアリ」の「コンプラが厳しい時代」に対してメタ視点でくさすみたいな姿勢、かなり強い意志でやらなければならないと思うのだが、全体的に半笑いだったのでダメだった。やるならやる、やらないならやらない。「有吉クイズ」で突然茂みに分け入っていカニを捕まえる有吉、怖くて面白かった。蛭子さんも元気そうだった。今日はしっかりと起きる。今週のクイズ王伊沢の舞台はネスレキットカット、どんどん小さくなってますね。午前中から外出。電車に乗って大阪へ向かおうと駅に向かったら、もうずっと使っていたチケットショップが今月の10日をもって閉店していた。お、おじさーーーん!駅のコンビニでアイスコーヒーを買って喫煙所で休憩してたおじさーーーーん!!また会う日まで……。梅田に到着して、とりあえずお昼ご飯。久しぶりに回転寿司を食べる。都会の回転寿司は美味しい。緊急事態宣言が解除されて、梅田の人出は多くなっているような気がする。それでいいと思う。お店を出て、梅田芸術劇場へ。演目は『ドン・ジュアン』。宝塚歌劇以外の公演を観るのはなんと去年1月の『シャボン玉とんだ』以来。チケットを取っては中止、取っては払い戻し……。心が折れそうになる。真彩希帆さんのインパクトが強すぎました。ちゃんとエントリーを書きます。終演後はリニューアルされた阪神百貨店をすこしうろついてから帰路についた。梅田の中心部を散策するのはかなり久しぶりで、楽しかった。夜は特になにもせず。観劇後特有の疲労感。梅田芸術劇場の椅子と自分の相性が悪く、下半身がバキバキになる。おしりが痛くなり、痛くなった部分をかばうことで足が……という悪循環。今日は早く寝たい。

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綺麗に撮れなかったシマアジ

 10/17(日):寒い。めちゃくちゃ寒い。「窓を開けていても暑い」から「窓を開けていると寒い」にたった一日でなるのはおかしい。おかしい。心地よい秋の気候を楽しむことが一日たりとも出来ないなんて、おかしいよ。気温の調整をしている存在がふざけているとしか思えない。人間どもがうろたえよるわと笑っているやつがいるに違いない。衣替えが急務だ。目が覚めるとがっつり掛け布団をかぶっていて、これまた冬の到来を感じる。昨日までタオルケットだってしっかりは着ていなかったのに。寒いよと思いながら朝ご飯を食べる。「シューイチ」ではノンスタイルとハリセンボンがボードゲームをプレイしていた。こういうご時勢になり友人とオンラインで遊ぶことが出来るボードゲームをする機会が増えた。最近のお気に入りは「東海道」。ミニゲームのない和風マリオパーティみたいな雰囲気で楽しい。今日もお昼過ぎから外出。電車に乗って西へ西へ。大阪で環状線に乗り換えて京橋まで移動する。学部時代の友人と合流して、とりあえずお昼ご飯を食べた。前々から気になっていたつけ麺のお店「maren」へ。滋賀ではほとんど食べられない昆布水に浸っているタイプのつけ麺。めちゃくちゃ美味しかった。醤油のきいたつけ汁で食べるのも美味しいけれど、個人的にはわさびと塩で食べるのが好みだった。そのあとは場所を変えつついろいろなことを話した。私は来年から上京するのでどうなるかねぇとか、そういうことを。夜には帰宅。疲れてしまったので、早めにベッドに入りたい。あと寒い。

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醤油つけそば

 

感想:星組公演『柳生忍法帖/モアー・ダンディズム!』

 男役・礼真琴にまた新たな一ページが追加された。若手の頃から抜擢が続き、まさしく躍進してきた彼は若く爽やかな主人公、あるいは強い意志を持った悪役を演じることが多かったが、柳生十兵衛というキャラクターは今までと違った意味でチャレンジングな役どころなのではないかと思う。実在した人物である柳生十兵衛は、徳川将軍家の剣術指南役を務める柳生家の嫡男として生まれながらおよそ13年に渡る空白期間を持っているため、江戸時代から現在に至るまでさまざまな物語に登場してきた。時代を代表する剣豪としての強さ、名門出身という育ちの良さ、政治の中心から離れたアウトローぶり……。誰もが描くカッコイイヒーローではあるのだが、この役の難しさはそこだけではない。今作の十兵衛は自らが矢面に立ちばったばったと敵を切り倒していくような立場ではなく、復讐に燃える女性たちに剣術と軍学を叩き込む指南役を務めることになる。このような役どころに求められるのは「懐の深さ」であり、その意味で礼真琴は自分の新たな一面を引き出すことが必要だったのではないだろうか。しかしそこはこれまで数々の抜擢に実力で応えてきた礼真琴と言ったところで、生き生きとした、それでいて礼真琴にしか出来ない柳生十兵衛を舞台に立たせていた。ダンスに秀でた組子を引っ張る彼の見せる殺陣はそれだけで一見の価値がある。対して今作が退団公演となる愛月ひかるもまた、集大成にふさわしいパフォーマンスを見ていた。宙組時代、朝夏まなとや真風涼帆といった演技派トップスターの下で培った演技力、表現力を存分に発揮し、芦名銅伯という妖しく、どこか人間を超越した存在感を持つ悪役を的確に演じていた。『エリザベート』でのルイジ・ルキーニ、『神々の土地』でのラスプーチンなど宝塚らしくない役柄を務める中で培ってきた彼にしか出来ない表現がそこにあった。銅伯とは双子の兄弟である天海大僧正との一人二役は難しい挑戦だったと思われるが、この二人の人物は同じ役者が演じなければキャラクターや世界観、作品そのものの厚みは損なわれていただろう。トップ娘役である舞空瞳は銅伯の娘であるゆらを演じ、彼女もまた新たな魅力を見せていた。十兵衛と出会うことでゆらの中に起こった大きな変化と、その変化を際立たせるためのそれまでの妖しさ。礼演じる十兵衛との関係はこれまでの作品でもあまり見ないものだったが、成長著しい彼女のパフォーマンスも素晴らしかった。大野拓史氏による脚本・演出である今作は「復讐」が大きなテーマとなっているがエンタメ要素の強い痛快な物語に仕上げられていて、ストーリー自体は分かりやすいものの、登場人物の膨大さと専門用語の耳なじみのなさに混乱する可能性もあるため、開演間にしっかりパンフレットを読んでおく方がいいかもしれない。若手の男役や娘役がクローズアップされる場面も多く、ファンとしては嬉しい演出になっている。

   

 二本目のショー『モアー・ダンディズム!』は岡田敬二氏による「ロマンチック・レビュー」シリーズの21作目となる作品。かつて真矢みき湖月わたるが主演した「ダンディズム三部作」の三作目でもあるこの『モアー・ダンディズム!』は、岡田氏本人が語るように「陶酔」が重要な要素となっている。例えば礼真琴お披露目作品のショーとなった『Ray』がそうであったように、近年のレビューはテンポが速く、スピード感とリズムで表現する「力強さ」や単純な「手数の多さ」を武器にした作品が多い。そんな中にあって今作はまさしく「優雅」で「うっとり」としたときめきに満ちている。

 ここからは印象的な場面をいくつか挙げていきたい。まずはプロローグ。幕開きで板付きの出演者たちはそれぞれ四色の衣装に身を包んでいて、観る者を非日常の世界へ誘う光景が広がる。「ロマンチック・レビュー」らしい場面が続く中、中詰めから続く場面ではこれぞ宝塚の男役という白い軍服に身を包んだ愛月ひかるのソロが。それが終わると世界観はガラリと変わり、ファンにはお馴染みの「ハード・ボイルド」の場面。漣レイラを筆頭としてダンサーを率いる礼真琴のキレを存分に楽しむことが出来る。「俺はダンディ お前じゃなく」なんて歌詞をまっすぐに成立させる、トップスターの存在感。終盤、デュエットダンスひとつ手前の場面は瀬央ゆりあのソロシーン。「ラ・パッション!」を高らかに歌い上げる彼の姿を見ていると、ここ数年の成長ぶりに驚かされる。紛れもない、星組の中心を担う男役だ。

 礼真琴・舞空瞳のトップコンビだけではなく、組全体の充実ぶりを感じさせる作品だった。それだけに夢妃杏瑠や紫月音寧、漣レイラといった長年にわたって組を支えた面々や、彩葉玲央に湊璃飛、澄華あまねら若手が退団してしまうのは寂しい。愛月ひかるをはじめ、みなさん、本当にお疲れ様でした。

 

感想:花組公演『銀ちゃんの恋』

 「宝塚歌劇らしさ」といったことについて考えるときに浮かんでくるのは、やはり「美」や「正義」、「平等」あるいは「愛」といったものだろうか。つかこうへい氏による『蒲田行進曲』を下敷きにしたこの『銀ちゃんの恋』に「タカラヅカ的」な潔白さや綺麗事は一切存在しない。しかし、美しい。あまりに美しい人間賛歌である。芝居に憑りつかれ、愛に病んだ人間を讃える歌が高らかに奏でられている。

 主人公の倉岡銀四郎(水美舞斗)は子役上がりの映画俳優で、自分が主役を務めることに固執している。破天荒で豪快な部分が目立つが、「俺こんな性格だし、友達減るよなぁ」と”自分が嫌われている”ということに対しては敏感な面も持ち合わせている。この銀ちゃんが本当にダメな人間で、京都で撮影中の映画『新選組血風録』では共演の橘(帆純まひろ)とたびたびトラブルを起こしてヤス(飛龍つかさ)を始めとした子分たちや恋人の小夏(星空美咲)をハラハラさせ、気の休まる暇を与えない。観客としては「銀ちゃんの何がカッコイイんだ」「どうしてヤスたちは銀ちゃんを慕っているんだ」と思ってしまうのだが、それがまさしくこの作品の肝となる部分なのである。トラブルまみれで小夏を妊娠させ、しかも「自分は大スター」との思い込みからスキャンダルを恐れて無理やりヤスと結婚させようする銀ちゃんには啞然としてしまうが、それでも銀ちゃんの言うことを聞いて小夏のために危険なスタントをこなして出産費用を稼ぎ始めるヤスにはもう、開いた口が塞がらない。

   

 この、銀ちゃんに対する感情に関しての「ズレ」。登場人物たちと観客との間にある「ズレ」が『銀ちゃんの恋』という作品では大きな役割を担っている。その「ズレ」が最後の最後、池田屋階段落ちを撮影する場面で大きなエネルギーを生み出すのだ。自らの死を賭して撮影に臨むヤスを、銀ちゃんは受け止める。ヤスを馬鹿にする橘に啖呵を切る。この場面の銀ちゃんは、本当にカッコイイ。水美舞との芝居と殺陣が素晴らしかった。彼が主演の和物をもっと観たいと思わせるパフォーマンスだった。銀ちゃんのカッコよさを爆発させる、それまでのダメっぷりを的確に表現する水美の力はもちろんこの「ズレ」に必要不可欠なものだが、ヤスを演じた飛龍つかさがいなければ、今回の『銀ちゃんの恋』がここまで素晴らしいものになることはなかっただろう。それほどまでに彼のパフォーマンスは圧巻だった。愛する「カッコイイ」銀ちゃんがどんどんしぼんでいき、自らは小夏のために命を削って仕事をする。「自分が階段落ちを買って出れば銀ちゃんはまたカッコよくなるはず」という狂気的なまでの献身と、死への恐怖。銀ちゃんへの愛と、小夏への愛。ヤスが心の底から「銀ちゃんはカッコイイんだ」と思っていなければ、爆発は起きない。「ズレ」は生まれない。新人公演で初主演を務めて以来成長著しい男役のひとりだったが、今回のパフォーマンスで花組若手男役の中では頭一つ抜けた存在になったように感じる。飛龍つかさのヤスでなければ、観客が「銀ちゃんカッコイイ」と思うことはなかっただろう。「ズレ」を生み出すという点で言えば、もちろん小夏の存在もかかせない。そんなにひどい扱いを受けているのにどうしてと言わずにはいられない小夏と銀ちゃんの恋路を、彼女は演じきっていた。三年目という若手だが、これからの活躍を大いに期待させる。脇を支える出演者、特に専科のふたりも素晴らしかった。ヤスの母を演じた京三紗は短い出番とセリフながら小夏を揺さぶる場面で大きな印象を舞台に残していたし、悠真倫は監督という立場から銀四郎や橘ら役者陣を支えまとめる大道寺を的確に演じていた。繰り返しにはなるが、素晴らしい作品である。水美舞斗と飛龍つかさという男役を語る上でなくてはならない作品のひとつになるだろう。

 

感想:雪組公演『CITY HUNTER─盗まれたXYZ─/Fire Fever!』

 雪組新トップコンビ彩風咲奈・朝月希和の大劇場お披露目公演が幕を開けている。演目は『CITY HUNTER』で、「あの『シティーハンター』を!?」と驚いたファンも少なくないだろう。もちろん私もその一人で、正直なところ一体どこをどうやってあの世界を舞台に、しかも宝塚の舞台上に再現するのだろうと不安なところもあったのだが、そこはさすがの宝塚という仕上がりだった。考えてみれば雪組早霧せいな・咲妃みゆの時代に『ルパン三世』『るろうに剣心』を見事に成功させていて、両作品を経験している組子も多い。漫画原作を宝塚歌劇に昇華させるノウハウのようなものが組のカラーとして受け継がれているのだろう。そうでなくとも、宝塚歌劇団の存在を世に知らしめたのは『ベルサイユのばら』なのだ。彩風咲奈は冴羽獠を演じるにあたって今までのイメージとは全く違う立ち姿をしっかりと示していたし、遅咲きのトップ娘役と言ってもいい朝月希和が槇村香として見せたパフォーマンスは流石の一言。重要な役どころを担うミックを演じた朝美絢は貫禄を感じさせるようになり、二番手として一切の不安なし。縣千や彩海せら、眞ノ宮るいといった若手も存在感を見せつつあり、望海風斗・真彩希帆という屈指のトップコンビが去った後も組全体の充実ぶり感じさせる公演だった。

   

 二本目のショー『Fire Fever!』は稲葉太地氏によるダンス・ショー。彩風咲奈と朝月希和の魅力はなんといっても洗練されたダンスだろう。2人の魅力を前面に押し出したこのショーは今までの、具体的に言えば前トップコンビが中心に立っていたころのショーとは全く違う雰囲気に満ちている。ダンス、ダンス、ダンス!タカラジェンヌたちの躍動する肉体をこれでもかと楽しむことの出来る、タイトルにふさわしい作品だった。特に圧巻だったのは出演者全員によるラインダンス。感染症の影響で組子全員が舞台に立つことが叶わなかった時期を経た、まさしく燃えるようなパフォーマンスの数々。宙組公演『デリシュー』に引き続き、宝塚のレビューはこうではなくては!と思わずにはいられなかった。フィナーレに続く、若手を中心とした組子が次々とダンスを繋いでいく場面も印象に残っている。これからの雪組を期待させる、素晴らしいショーだった。