感情の揺れ方

それでも笑っていたい

舞台に進出するアイドルたちについて

  

 まず始めに、このエントリーは多分に私の主観を含んでいること、普遍的な価値の話はしていないということを断っておきたい。

 ここ数年、アイドルの、特に乃木坂46メンバーのミュージカル進出が盛んになっている。私はそれを決して悪いことだとは思わないし、むしろ今までミュージカルを観なかった人たちがミュージカルを観るきっかけになるなら非常に喜ばしいことだと感じている。事実、私が観た『笑う男』では男子トイレに行列が出来ていた。ただ、今回実際にアイドル(衛藤美彩さんは元だが)のパフォーマンスを見ると、全面的に賛成とは言えないと思うようになってしまった。早すぎるのだ。アイドルに求められるパフォーマンスやプロダクトと、舞台作品に求められるそれは全く違う。アイドルのキャリア形成や、卒業後のプランを考える中で、おそらくスタッフが目標として考えるのは「テレビドラマ」や「映画」への出演だろう。要するに映像作品への精力的な出演だ。もちろん本人の意志とは違うかもしれないが。例えば最近では、乃木坂46を卒業した生駒里奈はずっと舞台作品への出演を続けているという事実がある。話を戻すと、プロデューサーないしマネージャーといった演者の将来をプランニングする人たちは、恐らく「舞台」を「ドラマ」や「映画」の練習をする場所、もしくは足掛かりだと捉えているのだと思う。だからこそ現役卒業問わずアイドルたちの舞台出演が活発になっているのだろう。『モーツァルト!!』、『レベッカ』、『ロミオ&ジュリエット』、『レ・ミゼラブル』、これから上演の演目では『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』…。ダブルキャストやトリプルキャストとはいえ、彼女たちの存在感は日に日に増していると言っていい。これだけは断言しておくが、舞台でドラマや映画の練習をするのは不可能だ。求められるものがあまりに違い過ぎる。特に帝国劇場や日生劇場、シアタークリエなどで上演され全国を回るような舞台作品には、プロフェッショナルが集まる。(もちろんドラマも映画も)。そこに入っていくことになるアイドルに待ち構えているのは、観客からの容赦ない批判だ。ファンの目は優しいだろうが、作品を見に来ている観客は優しくない。ダブルキャストになってしまうとなおさらだろう。簡単な比較対象が常にそこにあるのだから。それで本人たちが成長できるのならいいじゃないかという意見もあるとは思う。しかし、舞台、つまり板の上というのは「完成」したものを見せる場であって、「発展途上」のものを見せる場ではない。「まだまだ若いし歴も浅いから」なんて観客は思ってくれない。「下手だな」、「妥協した作品だな」と思うだけである。なんというか、「アイドル」と「それ以外のエンタメ」の最も大きな差はここにあるのではないだろうか。アイドルを支えるスタッフのみなさんには、今一度その辺りを考えて欲しいと思う。目標が「映画」なら「映画」に、「ドラマ」なら「ドラマ」に、「舞台」なら「舞台」に出演し続けて、積み上げていくしかない。そして、実力に見合った環境に。泳げないなら、いきなり外洋に出るのではなくまずプールで訓練を積まなければならない。