感情の揺れ方

それでも笑っていたい

野木亜紀子脚本『MIU404』第6話

 志摩一未は、誰のことも許していない。ルーブ・ゴールドバーグ・マシンの中に自分がいることに気付かず、決して押してはいけないスイッチに手を触れてしまったことを未だに許していない。

 「志摩は相棒を殺した」という噂を聞いた伊吹は志摩に直接真偽を尋ねるが、返答は芳しくない。九重と陣馬を巻き込み、全員が非番の休日に志摩とかつての相棒香坂の関係が明らかになっていく。

 第6話のタイトルが『リフレイン』であるように、伊吹と九重が香坂の死を調べていくシーンと並行して捜査一課時代の志摩、香坂のやり取りが繰り返し挿入される。繰り返し繰り返し、ミュージカルでひとつの曲が場面を変えて何度も繰り返されるかのごとく、香坂の背中が映し出されていく。「もしもあのときこうしていたら」という志摩の懺悔が生み出す幻とどうしようもない過去とが、シームレスに展開していく。スイッチ。『MIU404』をつらぬく大きなテーマである「スイッチ」を志摩はすでに押している。そして伊吹もまた、自分自身がその「スイッチ」のひとつであることを知っている。

伊吹「俺が四機捜に来たのがスイッチだとして。(中略) ほら、俺が四機捜に呼ばれたのって、急遽誰かが四機捜に入ったから志摩と組むやつが足りなくなって、こう、俺が呼ばれたんでしょう?玉突きされて入った俺が404で志摩と組むことになって二人で犯人追いかけてその一個一個全部がスイッチで、なんだか人生じゃん?一個一個、大事にしてぇの。諦めたくねぇの。志摩と全力で走んのに、必要なんすよ」

 伊吹藍は、誰もに手を伸ばす。道の分からなくなった老人にも、故郷へ逃げる殺人犯にも、いたずらに走る高校生にも。そして、どこか死に場所を探しているように見える相棒、志摩の手を掴もうとする。いつか二人で、全力で走るために。

 真相を知った伊吹は志摩を事件のあったビルの屋上へ呼び出す。志摩の口から語られたのは、香坂の死に対する後悔だった。

志摩「チャンスはあった。何度も。だけど声をかけなかった。無視した。(中略) あれから何度も、何度も何度も何度も何度も何度も頭ん中で繰り返す。あのとき声かけていたら、あのとき屋上に行っていたら、もっと前あいつの異変に俺が気づいていたら。スイッチはもういくらでもあった。だけど現実の俺はそれを全部見過ごした。見ないふりした。俺があいつに最後にかけた言葉は、『進退は自分で決めろ』」

 かつての相棒香坂と現相棒伊吹が、美しくオーバーラップしていく。けれど、伊吹は死なない。香坂の倒れていた地面に向かって「ごめん」とつぶやく志摩に対して、伊吹は空に向かって笑顔でありがとうと言葉をかける。生命線を見せつけるために延ばされた伊吹の手を志摩が掴む日が来ることを願ってやまない。

伊吹「ま、安心しろ。俺の生命線は長い」