感情の揺れ方

それでも笑っていたい

グレタ・ガーウィグ監督作 映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

 非常に美しい映画だった。なんと言えばいいのか、俳優陣や街並み、木々や波打ち際に至るまで、画面に映し出されるすべてのものが美しかった。

 ルイーザ・メイ・オルコットによる世界的なベストセラー小説『若草物語』を原作に、グレタ・ガーウィグが監督・脚本を務めたこの『ストーリー・オブ・マイライフ』は、非常に映画的な作品に仕上がっている。登場人物のジョー、メグ、ベス、エイミー、ローリーそれぞれの視点から描かれる物語は、時間軸の転換も多く、過去と現在の行き来は劇的だ。四姉妹とローリーにとって、その関係はどのようなものだったのか。小説家になることを目標に生き、女性にとっての幸せは決して結婚だけではないと考えるジョーの生き方はともすれば非常に現代的で、かつ政治的だ。19世紀のアメリカにおける問題は、今の世界でも変わっていない。この作品における大きなテーマに、「女性が芸術家として生きること、そして経済力を持つとはどういうことか」がある。「文学史、美術史に名前の残っている作家がどれだけいる?」というセリフが耳に残る。作中で語られる「女性の結婚」は、常に「経済問題」と同義なのだ。長女のメグは愛する人と結婚したものの貧乏にあえぎ、まだ裕福だった頃の虚栄に苦しむ。四女のエイミーは画家になることを夢見ながらも、「お金持ちと結婚するため」にパリへ行き社交界でその相手を探す。一方で三女のベスは病と闘いながら家族、隣人へ愛を向けながら生きている。そして次女のジョーは小説家になることにすべてを捧げているが、しかしローリーとの関係に思い悩む。

 どこまでも重いテーマを抱えるこの作品を軽やかに彩るのは、その特徴的な画面作りだろう。夢と希望に満ち溢れていた過去は、暖色。挫折と不安の漂う現在、寒色。このシンプルな色使いが徹底されている。時間軸の転換は非常に激しく行われるが、ストレスなく見ていられるのはこの演出のおかげだ。画面に映るすべての色彩に気を配る画面作りが美しい。監督の気配りはもちろん登場人物のスタイリングや所作にも表れている。四姉妹にはそれぞれの「カラー」が設定されているように見受けられ、ジョーはパーティでも決してコルセットを装着しない。自由に生きるのだ、というジョーの信条はローリーと服を交換しているところや、決して彼の腕を取らないといった振る舞いにも非常によく表れている。

 ここからはとても個人的な感想になるのだが、あまりにも美しいその映像に心奪われるあまり、ストーリーラインにおける「重要な何か」を見落としてしまっているような感覚がある。女性が結婚するとはどういうことなのか、女性がアーティストとして経済的に自立するとはどういうことなのか…。家族とは何か。

 一度の鑑賞ではその全容を掴むことの出来ない、非常に重層的な作品になっている。