感情の揺れ方

それでも笑っていたい

映画評:『ムーンライト』


とても、とても静かな作品だった。輝く月を写す海のように、寄せては返す波の音が余韻として深く刻まれるような、そういう作品だった。

三部構成になっている作品で、特に大きな事件もなく、ともすればある程度の人間が経験したことがあるような日常とその大胆な省略に彩られている。およそほとんどの事は語られず、イベントはいつの間にか始まり、いつの間にか、あざ笑うように終わっている。
日々のどうにもならなさを残して。

印象に残っているシーンは2つあって、ひとつは第一部の何気ないフアンのセリフ。"扉に背を向けるな"という、何の事はないリビングでシャロンに言ったこのアドバイスが、エンディングまで貫かれている。
もうひとつ、これまた第一部でシャロンがフアンに水泳を教えるシーン。この作品全体を通して登場人物は自分の足で、要するに徒歩で移動することが殆ど無い。"歩いてきたのか?"という問いは、答えられることがない。それがこのシーンを特徴づけている。

見終わって、反芻してやっと感想を言える作品だった。