感情の揺れ方

それでも笑っていたい

2019年の宝塚歌劇を振り返る

 2019年、宝塚歌劇団は105周年を迎えた。あの100周年がもう5年も前なのか、あの運動会がもう5年も前なのかと、月日の速さには驚くばかりだ。2019年もあっという間に過ぎ去り宝塚は106年目となる2020年を迎えたが、今回は歌劇団の2019年を振り返りたいと思う。本当は旧年中にこのエントリーを書こうと思っていたのだけれど、そのあたりには目をつむってもらいたい。

 まず、大劇場では2019年の1月1日に星組公演『霧深きエルベのほとり/ESTRELLAS~星たち~』が開幕した。「Once upon a time in TAKARAZUKA」と銘打たれたこの公演は、『エルベ』ではまさしくクラシカルでこれぞ!という演目を、そしてショーは近年ヒットしたポップミュージックをふんだんに取り入れた演目を上演し、新たな宝塚歌劇の在り方を示しているかのようだった。一方、東宝こと東京宝塚劇場では1月2日から雪組公演『ファントム』が開幕。望海風斗・真彩希帆のゴールデンコンビが年明けから圧倒的なパフォーマンスを発揮し、観客を魅了したことは言うまでもないだろう。

 一年間の演目を見ていくと、大劇場では3作、東宝では4作もの一本物作品が上演された。内訳としては海外ミュージカルが『ファントム』と『I AM FROM AUSTRIA』、宝塚が初上演となるのが生田先生オリジナルの『CASANOVA』と、映画原作の『オーシャンズ11』。やはり一本物のミュージカルは強い。それは作品自体においても、集客という面でもそうだ。私は一本物も大好きだけれど、宝塚と言えばお芝居と華やかなショーの2本立てだと思っているところもあるので難しい。2020年1月現在、予定されている一本物は雪組の『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』、宙組の『アナスタシア』、そして星組の『ロミオとジュリエット』の3つである。なんとなくの予想にはなるが、おそらく2020年の一本物はこの3つでおしまいだろう。『アナスタシア』は外部での公演もあるため、おそらく日本のミュージカル界が次に目をつけた作品であり、『ロミオとジュリエット』は新人公演での主演経験がある礼真琴へのプレゼントのようなものではないか。ちょうど宙組の『オーシャンズ11』がそうであったように。

 独断と偏見ではあるが、実際に劇場で観た中で印象に残っている作品をいくつかピックアップしておこうと思う。

f:id:Maholo2611:20200111155058j:plain

明日海りお

 まずは花組公演の『CASANOVA』。明日海りおが宝塚で演じるにこれ以上ないというくらいのキャラクターがジャコモ・カサノヴァだったように思う。そしてやはり、仙名彩世という稀代の娘役の退団公演でもあった。一本物のオリジナルミュージカルをコンスタントに上演する、できるというのが宝塚の強みのひとつではないだろうか。

maholo2611.hatenablog.com

 

f:id:Maholo2611:20200111155633j:plain

望海風斗・真彩希帆

 次は雪組公演の『壬生義士伝/Music Revolution』。『壬生』では望海風斗・真彩希帆のトップコンビがその表現力を輝かせ、観る者の涙を誘った。トップになってからの望海風斗のパフォーマンスには鬼気迫るものがあるように思う。このコンビは本当に、どこまで行くのかと楽しみになるコンビだ。『Music Revolution』もかなり熱量のあるショーで、組全体が上昇しているなという印象がある。

maholo2611.hatenablog.com

f:id:Maholo2611:20200111160625j:plain

礼真琴・舞空瞳・凪七瑠海

 そして星組公演の『ロックオペラ モーツァルト』。星組新トップコンビ礼真琴・舞空瞳のプレお披露目公演であるこの作品は、素晴らしい公演だった。トップスター礼真琴の誕生は、称賛とともにあるべきものだった。礼真琴の爆発するようなパワー。そして臆せず渡り合おうとする舞空瞳。すごいコンビが誕生したなと思わせるパフォーマンス、演目だった。大劇場お披露目公演が楽しみで仕方ない。

maholo2611.hatenablog.com

 

 

 演目の次に言及しなければならないのは、やはり退団者だ。2019年も例年通り、数多くのタカラジェンヌが夢の殿堂を後にした。その全員に最大限の敬意を表しつつ、幾人かの退団者にスポットを当てたいと思う。

f:id:Maholo2611:20200111221357j:plain

美弥るりか

 まずはやはり、2003年に入団し星組に配属、後に月組へ組替えし長い間唯一無二の魅力を持って活躍した美弥るりかに言及したい。彼は珠城りょうがトップスターに就任してから二番手として組を支えていたが、二番手のまま宝塚を去った。その妖しいまでの美貌は観る者を虜にし、加えて演技力は卓越していたように思う。『BADDY』でのスイートハート、そして『グランドホテル』でのオットー・クリンゲラインで見せたあの素晴らしいパフォーマンス。樹里咲穂が、彩吹真央が、そして美弥るりかが、トップスターの羽根を背負うことなく宝塚を去る。宝塚の宿命と分かってはいても、寂しさが込み上げてしまうというのが正直なところである。

オットー「分かりませんか?

     私はこのホテルに泊まらなくてはならないんです」

         ──『グランドホテル』より

 

オットー「人生は、私が知らないうちに通り過ぎてしまった…」

         ──『グランドホテル』より

maholo2611.hatenablog.com

 

f:id:Maholo2611:20200111223711j:plain

左から、七海ひろき、紅ゆずる、水乃ゆり

 同じく2003年入団の89期生である七海ひろきの退団も記憶に新しい。彼は宙組に配属され、後に星組に組替えされている。トップスター北翔海莉のもとでその麗しいヴィジュアルと演技力に磨きをかけ、紅ゆずるがトップに就任すると組にとってなくてはならない男役として、その地位を確固たるものとして築き上げた。紅ゆずるのお披露目公演『THE SCARLET PIMPERNEL』ではロベスピエールを務め、新たに追加されたロベスピエールのソロ場面を好演。初演と再演ではなかった場面を非常に高いレベルで作り上げ、公演自体を底上げしていたように思う。『燃ゆる風』ではバウホール単独初主演を経験したが、『霧深きエルベのほとり』での退団が発表された。彼が宝塚人生の最後に演じたトビアスというキャラクターは、ファンの心にいつまでも残り続けるだろう。

ビアス「よーし、それでは、諸君の安全な航海を祈る!

     じゃあみんな、あばよ!」

       ──『霧深きエルベのほとり』より

maholo2611.hatenablog.com

 

f:id:Maholo2611:20200111224725j:plain

仙名彩世

 明日海りお3人目の相手役として花組トップ娘役を務めた仙名彩世の功績は素晴らしいものだった。『邪馬台国の風/Sante!!』、『ポーの一族』、『MESSIAH/BEAUTIFUL GARDEN』、『CASANOVA』と、どれを取っても彼女のパフォーマンスには素晴らしいものがあったが、やはりショー作品における輝きは他を圧倒していたというのが私の感想だ。彼女のダンスには本当に、目を見張る流麗な美しさがあった。

ベアトリーチェ「600年でも、1000年でも待つわ!

        私はこの人と結婚します!」

        ──『CASANOVA』より

maholo2611.hatenablog.com

maholo2611.hatenablog.com

f:id:Maholo2611:20200111224922j:plain

綺咲愛里・紅ゆずる

 紅ゆずる・綺咲愛里という素晴らしいコンビの退団は、ファンとしては寂しい限りだ。長らく2番手の羽根を背負って来た紅ゆずるが満を持してトップに就任、それと同時に星組トップ娘役となったのは綺咲愛里だった。この二人の相性の良さは、もはや私が言及するまでもないように思う。綺咲愛里が紅ゆずるに全幅の信頼を置いて公演を務めていることは観る者の目に明らかであり、紅ゆずるもまた綺咲愛里の魅力を最大限引き出していた。彼女のプリティーな魅力とそれに反した、ある意味での男らしさのようなものは、紅ゆずるでなければ受け止められなかっただろう。

カール「マルギット、俺ぁ俺ぁなぁ、お前に惚れちまったんだ。

    だから頼むから頼むからよ、俺と結婚してくれよ」

マルギット「………」

カール「おいマルギット、返事をしろよ、おい返事をしてくれよ、

    おいマルギット返事をしろよ」

マルギット「あなたが、あなたがいい人だから、返事ができないのよ」

カール「あぁ、俺は昔からいい人なんだよ!」

       ──『霧深きエルベのほとり』より

maholo2611.hatenablog.com

f:id:Maholo2611:20200111230849j:plain

明日海りお

 そして最後に、2019年の宝塚歌劇最大のトピックであろう明日海りおの退団に触れなければならない。明日海りお。2003年入団、月組に配属。2012年には劇団史上初となる「準トップ」に就任し翌年花組に組替え、2014年に花組トップスター。以後輝かしい功績を残し続け、「トップ・オブ・トップ」との呼び声高く、宝塚歌劇の一時代を築き上げた。そんな彼が、2019年11月24日を持って宝塚を去った。少なくとも、いや確実に、100周年以降の宝塚を担ってきたのは彼だ。彼の活躍なくして今の花組、そして宝塚歌劇団はなかっただろう。それほどの影響力が彼にはあった。トップスターとは、ライトが当たっていなくても自ら光を発する者のことを言うのだと、彼の宝塚人生を見ていると痛感する。

カサノヴァ「ダメだ。逃げても逃げても女たちが付いてくる」

         ──『CASANOVA』より

maholo2611.hatenablog.com

 去るトップスターがいた以上、新たに就任したトップスターもいる。花組の羽根を引き継いだのは柚香光、星組は礼真琴である。彼らはともに2009年入団の95期生で、早くから抜擢が続いた組子と言っていいだろう。言うなれば、満を持しての就任だ。2019年末、柚香より一足先にプレお披露目を済ませた礼真琴のパフォーマンスは素晴らしく、ファンの心配を吹き飛ばすものだった。柚香にも期待したいところである。95期生と言えば、花組では水美舞斗、月組では月城かなと・輝月ゆうま、雪組では朝美絢、星組では瀬央ゆりあ、宙組では桜木みなと、と各組で中心を担う男役の多い世代で、2020年にはさらなる躍進が期待される年代だ。今年の歌劇団を席巻するのは、おそらく、いや確実にこのメンバーだろう。

 2020年の宝塚歌劇にも、ファンとして様々なことを期待するばかりである。