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花組次期トップスター、そして退団者の発表

 先日、ついに花組の次期トップスター、つまり明日海りおの後任が発表された。大劇場公演の集合日当日、そして翌日にも発表されなかったということもありファンには待望の発表だったのではないかと思う。もちろん私もそういうファンの一人だ。

 肝心の次期トップスターは、2009年入団の95期生、柚香光。2014年『ラスト・タイクーン』での新人公演初主演を皮切りに計3回の新公主演、バウホール、東特、全国ツアー主演と着実に路線を進んだ男役だ。こうして彼の経歴をさかのぼると、今回のトップスター就任は誰もが予想していたことのように思われる。ちょうど同じく95期の礼真琴が星組のトップスターに就任するように。しかし、もちろん個人的な話にはなるが、私は明日海りおの後任というタイミングで柚香光が羽根を引き継ぐとは思っていなかった。それにはいくつか理由がある。

 ひとつに、芹香斗亜が宙組に組替えしたということが挙げられる。芹香斗亜は2007年入団の93期生で、2012年に星組から花組に組替え。それ以降は新人公演やバウホールで活躍し、2015年の明日海りお・花乃まりあの新トップコンビお披露目公演からは2番手の羽根を背負っていた。私としては、明日海→芹香というリレーになるかなと思っていたところで芹香が宙組に移籍したので、明日海りおがまだまだトップスターとして羽根を背負い続けるのかと予想していた。ところが明日海の退団が発表されてしまう。このタイミングなら芹香の組替えも鳳月杏の組替えも必要なかったのでは?とすら考えてしまうが、人事がそう言うのならファンにはどうすることもできない。2番手としての経験を柚香に積ませる、という目的もあったのだろう。柚希礼音の後任が北翔海莉であったように、トップ・オブ・トップの後には誰かを挟むのだろうと思っていた、というのが一つ目の理由になる。

 ふたつ目が、トップ娘役との相性。明日海をして「完璧な娘役」と言わしめた仙名彩世が『CASANOVA』で退団し、その後任になったのが華優希。つまり、柚香光の相手役ということになる。柚香光・華優希というトップコンビだ。トップスターの発表よりも前に華が娘一に就任している以上、トップスターの発表はつまり「誰が華とコンビを組むのか」の発表ということになる。宝塚歌劇において重要なもののひとつに、「トップコンビの相性」があると私は思う。それはヴィジュアル面においても、またダンスや歌などにおいても避けては通れない問題だ。蘭寿とむ蘭乃はなの「らんらんコンビ」はまさしくダンサーコンビだった。『CONGA』でのパフォーマンスは圧巻という他ない。そして現在の雪組トップコンビ、望海風斗・真彩希帆は劇団も言うように「歌唱力に定評のある」コンビだろう。『ファントム』はもちろん、二人の実力は雪組全体を底上げしているようにすら思う。では、柚香・華コンビはどうだろうか。正直、私には二人の相性が良いとは思えない。柚香の魅力はなんと言っても長い手足を活かしたダンスだろう。群舞においては良い意味でも悪い意味でも目立つところがあったが、トップスターとしてセンターに立つようになればかなり魅力のあるパフォーマンスを期待出来るのではないだろうか。劇団もそれを見越したプレお披露目公演のチョイスだと思う。しかし、華優希のストロングポイントは決してダンスではないように感じる。『CASANOVA』、そして『恋するアリーナ』、アリーナの方はニュース映像だけだが、それらを見ていると彼女の踊りは柚香が得意とするようなタイプの踊りではないような気がする。もちろんこれからの本人次第ではあるが、ダンスでの相乗効果を期待するのは難しいというのが、個人的な意見だ。だからこそ、華優希の相手役として柚香光るが就任することはないのではないか、という予測を立てていた。

 最後に、タイミングの悪さがある。先述したように、歌唱力でもって組に大きく貢献していた鳳月杏が月組に移籍した。そして、若手娘役の中で路線に乗り、歌唱力・ダンス・ヴィジュアルの三拍子揃った舞空瞳が次期トップ娘役として星組に移籍。そればかりか、『CASANOVA』では仙名彩世、花野じゅりあ、桜咲彩花ほか2名、合わせて5名の「花娘」を支えた実力ある娘役が退団。さらに今回の『Fairy Tail』でも芽吹幸奈、白姫あかり、乙羽映見、城妃美伶という娘役たちが退団することが発表された。これはかなりの痛手になるだろうと思ってしまう。新人公演を卒業した娘役で残っているのは鞠花ゆめ、美花梨乃、華雅りりか、真鳳つぐみ、更紗那知、春妃うらら、雛りりかだけだ。はっきり言って異常事態だろう。この中で新人公演やバウでのヒロイン経験があるのは華雅りりかと春妃うららだけで、娘役を引っ張っていくというプレッシャー、負担が大きくなりすぎてしまうのではないだろうか。音くり寿、咲乃深音といった若手のヴォーカリストがいるとは言っても、芽吹幸奈、乙羽映見の抜ける穴は大きい。明日海退団、鳳月組替え、そして娘役退団の影響もあって、新生花組には歌唱力の不安があると言っていい。だからこそ柚香光ではないのかなと私は思っていた。彼の武器は歌唱力ではない。そして、華優希の武器もまた歌唱力ではないように思う。トップコンビの相性というのは、そういう話だ。もちろん、歌唱力を武器にしていないトップスター、トップコンビというのは今までにも多かった。近年で言えば大和悠河早霧せいなといったトップスターは歌を武器にしたトップではなかったし、現星組トップコンビの紅ゆずる・綺咲愛里もまた決して技巧派のコンビではない。彼らの魅力は歌とは別のところにあった。ただ、早霧せいなや紅・綺咲らに言えるのは、相手役や2番手に助けられていたということだ。早霧せいなの相手役は咲妃みゆで、2番手には望海風斗がいた。そして星組の2番手は歌って踊れる礼真琴だった。支える組子の存在と、任せるところは任せるという懐の深さが彼らにはあった。では、柚香・華はどうか。いやむしろ、花組にそういう存在がいるだろうか?瀬戸かずやには円熟味を増した舞台さばきと演技力が、水美舞斗には華やかなヴィジュアルとダンスのキレがある。ただ、やはり鳳月と比べれば歌唱力は劣ってしまう印象だ。つまり、花組には2番手が誰になるのか?という問題も生まれているのである。順当に行けば水美舞斗だろう。ダンスはもちろん、歌唱力も着実に伸びている。すこし負担が大きくなってしまうかもしれないが、成長するチャンスでもある。そして、舞咲りん、あるいは白妙なつのような存在になるベテランが退団しているのが、柚香就任後の花組ということになる。しばらくは番手が誤魔化されるだろうと思う。しかし順当に行かないのが宝塚の人事というもので…。このような問題、そして集合日翌日にも発表されなかったことから、他の組から誰かが来るのだろうと思っていたというのが最後の理由である。

 波乱含みの花組。おそらくものすごく大きい組替えがあるとは思うけれど…。星組宙組から娘役が花組に移籍するのは確実ではないだろうか。

 明日海りお退団後の花組は、試練の時期だろう。だが、若手の頃から活躍している新トップスター柚香光の実力、そして華優希に期待したいと思う。