感情の揺れ方

それでも笑っていたい

感想:宝塚歌劇団花組『CASANOVA』

 今回は花組の大劇場公演です。生田大和先生の大劇場一本物デビュー作、しかも作曲は『1789』や『太陽王』で有名なドーヴ・アチア氏ということで劇団の力の入れようがうかがえます。トップ娘役仙名彩世さんの退団公演ということもあって、どのような雰囲気の作品になるかなと思っていたのですが、『祝祭喜歌劇』と銘打たれている通り観た後は明るい気持ちになるというか、笑顔で劇場を去ることが出来る作品でした。ただ、仙名彩世さんの退団なので私はめちゃくちゃ泣いてしまいましたが…。

 生田先生と言えば『春の雪』『ラスト・タイクーン』などのシリアスな作風のイメージですが、18世紀のヴェネツィアを舞台にした今回の『CASANOVA』は本当に宝塚らしい、なんというか「トップスターの実力で説得力を持たせる」ような作品でした。いやぁ、明日海りおさん。何と言っても明日海りおさんですよ、ジャコモ・カサノヴァ。完璧でした。稀代の、いや伝説の色男を演じるのにこれ以上の人はいない。登場するほとんどの女性を虜にするカサノヴァは言うなれば本当に希薄な人間で、ともすれば何の説得力も魅力もないキャラクターに見えてしまう可能性があります。しかしそこをこなしてしまう明日海りおさん。すごかった。カーニヴァルの女性たちや、宮殿の女性はカサノヴァに一瞬で一目惚れしてしまうんですが、そういうシーンがちゃんと成立していました。あり得ないなと白けてしまうのではなく、しっかりとコメディタッチに、しかし説得力が同居する。何と言ってもカッコいいですから。そりゃそうなります。最高です。

「愛の導くままに 愛しすぎただけ

 人より ただ愛に生きただけ…

 愛し合う自由が 罪だと言うならば

 生きてゆく意味は どこにある」

 

 今回で退団される仙名彩世さんはヴェネツィア総督の姪で、修道院からヴェネツィアにやってきたばかりの女性ベアトリーチェを演じます。彼女は修道院で様々なことを学んだ理知的な女性で、良くも悪くも真っすぐな人物です。自分がそうでないと思うならたとえ貴族が相手でも意見をぶつけるようなキャラクター。そういう人物がどういうわけかカサノヴァに恋をしてしまう。そういう相反する感情に揺れ動くベアトリーチェの繊細な心情を仙名彩世さんは上手く表現されていました。もちろん歌・ダンスもさすがとしか言いようがありません。キレキレ。誰と組んでも相手役が輝く。すごい。

「運命の人だと 信じたい それなのに

 あなたの素顔に 怯えて立ちすくむ」

 

 カサノヴァのパートナーというか、バディのような立ち位置になるバルビを演じていたのは水美舞斗さん。ここ最近は『MESSIAH』の松平信綱、『メランコリック・ジゴロ』のスタンなどを好演されていましたが、今回は今までとは少し違う毛色の、新しい一面を見せられていました。爽やかでカッコいいカサノヴァとは対照的にひげと髪がもじゃもじゃで、女性には見向きもされないような役なのですが、だからこそカサノヴァとのコンビが際立っていて良かったです。明日海さんまでもが退団を発表されて、これからに期待したい男役さんです。

「人生には恋と冒険が必要か…そんなこと教えてくれたのは旦那が初めてだ。

 1000の女を抱いた男、カサノヴァ…。あの旦那についてゆき、

 恩を売ればおこぼれ頂戴できるかもしれない。

 そうすりゃ俺の人生、薔薇色だ!」

 

 そして花野じゅりあさんと瀬戸かずやさんが作品の中でも重要なキャラクターを演じられていました。じゅりあさんのゾルチ夫人、瀬戸さんのコンスタンティーノは後半特にコメディリリーフ的な立ち位置で、見ていて笑ってしまう役柄なんですが、それがすごく良かったです。なんというか、バカップル。微笑ましいタイプのバカップル。

ゾルチ夫人「女神があなたを救ったのね…」

コンスタンティーノ「ああ。そして、ようやくこうして再会できたんだ…」

ゾルチ夫人「まぁ…」

 

 そして見る前から注目していた鳳月杏さん。月組からの組替え以来、どんどんと実力をつけていらっしゃる男役さんですが、なんと今回は女役を演じていらっしゃいます。柚香光さん演じるコンデュルメルの妻は、なんというかミステリアスなキャラクター。妖しい部屋で黒魔術に精を出し、6人いる僕はみんな猫と人間のハーフみたいな風貌。スカイステージの番組で僕の方たちが仰っていましたが、2割猫の8割人間くらいの感じらしいです。さて鳳月さんですが、まずもってめちゃくちゃ綺麗でした。めちゃくちゃ。そして足が以上に長い。鳩尾から下全部足なんじゃないのかっていう。持ち前の歌唱力は女役でも遺憾なく発揮されていました。

 おっ、と思ったのは音くり寿さんですね。先述したコンデュルメル夫人の僕のひとりを演じていらっしゃって、スタイリングも全体的に猫っぽいんですがそれがすごく似合ってらして、とても可愛かったです。エトワールは圧巻でしたね。もっと歌の場面が増えるといいのになぁと思います。

 気になったのはヴェネツィアの街のセット。ちょっとしょぼかったかな…?作曲と衣装に費用を全部使っちゃったような雰囲気。その分衣装はどれも本当に綺麗でしたが。カサノヴァのレースになっている衣装やベアトリーチェの青いドレスなどなど。

 あと、序盤で税金は民衆から巻き上げればいいみたいなことを言っている総督が最後で急に改心していて、そこはちょっとつっかえる感じが。

 ただ、全体的に見れば私にはすごく好みの作品でした。仙名彩世さんの退団公演は二本立てでショーが良かったな、なんて思っていたのですが『CASANOVA』は仙名彩世さんに相応しい作品でした。彼女の退団がこういう作品で本当にうれしい。

 仙名彩世さん、本当にお疲れ様でした。

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