感情の揺れ方

それでも笑っていたい

感想:宝塚歌劇団星組『霧深きエルベのほとり/ESTRELLAS~星たち~』

 今年はちゃんと観た公演全部感想を書きたい。書きたいのでとりあえず2019年お正月公演『霧深きエルベのほとり/ESTRELLAS』の感想をば。

 『霧深きエルベのほとり』は菊田一夫作、今回の演出は上田久美子。上田先生は『星逢一夜』や『神々の土地』など、ミュージカル流行りの宝塚にあってすこし毛色の違う作品を手掛けていますね。その一方で『BADDY』はめちゃくちゃ宝塚らしい、なんというか「スターの力技でどうにかする」みたいな演出をやってくれるので個人的に好きな先生です。ただのファンが先生って言うのちょっとあれっぽく思われるだろうな、という感じではありますが。生田先生、小柳先生、上田先生が好きです。

 「Once upon a time in TAKARAZUKA」と銘打たれた公演で、「おっ、105周年だし今年の公演はすこしクラシックというか、トラディショナルなものをやっていくのかな」なんて思ったんですが、作品ラインナップを見る限り全くそんなことはなかったですね。一本物が多いし。一本物もすごく好きなんですが、やっぱり「芝居/ショー」の二本立てが宝塚っぽいなぁと思うので。

 さて、『エルベ』は結構しっかりしたお芝居でした。菊田一夫演劇賞菊田一夫が宝塚に書き下ろした作品ということで…初演は1963年までさかのぼります。前回の公演も1983年。これを現代の宝塚でやるにあたってどういう風にするのか?という期待があったんですが、上田先生のシンプルながら宝塚っぽい演出と紅ゆずるを筆頭にした星組メンバーの実力が上手く反応して非常に良い作品になっていたように思います。紅ゆずる演じる主人公のカールはしっかり作り上げられていて、現代とは違う、昔気質の男らしい男、という感じ。

「お前さんて、人からは、悪党でおっちょこちょいと思われていたいんだから、おかしなひとだよ」

 綺咲愛里はシュラック家のご令嬢マルギットを。この人はなんというか、ズルい。シンプルにめちゃくちゃ可愛いというその一点で、めちゃくちゃズルい。だって、それだけで役柄にものすごい説得力が生まれるんだから。今日日、父の決めた結婚に納得がいかず家を飛び出したご令嬢なんて基本的に共感も何もされない。下手をすればそれだけで作品全体の説得力がなくなってしまう。そこを綺咲愛里はそのヴィジュアルと持ち前の実力で突破していく。「その真っ白なワンピース普通に着てるけどそのワンピースを普通に着られるなんてことある?あぁその青いワンピースも!」みたいな。これは分かりやすい例ですけども。

「祭の熱に酔って、私は恋をしたかもしれません!でも、祭の熱に酔って私は家出をしたのではありません!」

 礼真琴はマルギットの許嫁であるフロリアンを怪演していました。礼真琴さん、『桜華に舞え!』の永輝でカッコイイ方面に羽化したよなぁと思っていて、今回のフロリアンでまた新たな地平を切り開いたなという感じです。フロリアン、底知れないんですよね。見方によっては神様みたいなキャラクターで、でもめちゃくちゃな偽善者にも見えるという難しい役どころ。言うなれば全部が嘘っぽい。マルギットへの想いもカールへの気持ちも。その辺りがすごく上手かった。

「フロリアン、あなたは、お姉さまに腹を立てていらっしゃるのね」

「いや、僕はマルギットの心を掴めないのが残念なだけだ」

  そして何といっても七海ひろき。今回の公演で退団なんですよ…。だからこの記事を書いている今はもう退団されているんですよ…。非常に悲しい。で、トビアスという役柄も七海さんのそういう状況と重なるようなところがあって。そりゃあ泣きますよ。なんと言ってもカッコイイし。

『ああ海よ 聞こえるか 残しゆく 友の歌

 いつまでも聞いてやれ お前だけが 

 海よ いつまでも聞け 我らの歌』

  最後に、個人的に『エルベ』で最も重要な役だと思っているシェザンヌを演じていた有沙瞳さん。シェザンヌというキャラクター、おそらくフロリアンの心の声が人間の形になっているんですね。シェザンヌと会話をするのはフロリアンだけだし、シェザンヌのセリフには誰も反応しない。マルギットの両親も一切シェザンヌのことは口にしない。上田先生の徹底的な演出が入っています。そういう難しい役柄を有沙さんは好演していました。

「エルベの河は霧が深いとよく言うけれど、ほんとうに霧が深いのは、私たち、シュラックの家の中のことなのね」

 ざっくり言うと思っていたより面白かったです。紅さんの演技に応える綺咲さんと礼さん、海の男として作品を彩る七海さん、瀬央さん、紫藤さん、天華さんなどなど…。t天飛さんや水乃さんは期待の若手という感じですね。クライマックスでは泣いている人も多かったです。ただ、トビアスが水切りをするシーンとか最終盤での「カール!」というセリフがめちゃくちゃ反響するところとか、ちょっと笑っちゃうところもあります。公演期間の後半、「カール!」に関してはちょっと反響を抑えるように演出が変わってたような気がします。

 

 『ESTRELLAS』はなんというか、宝塚っぽいショーではなかったですね。ちょっとJPOPの曲が多いかなぁ。いや、多すぎるくらい。主題歌がキャッチ―で良い曲なだけに、SEKAI NO OWARI平井堅flumpoolと畳みかけられてこっちが混乱してしまったのが個人的には残念。そして中詰めのオレンジレンジでお腹がいっぱいになってしまいました。『Sunny』とか『Hot Stuff』とか、お馴染みの洋楽も多くてそこは好きだったんですけども。『ストリートオブファイヤー』なんかも良かったです。

 

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  この場面のひろ香さんと漣さんのダンスがめちゃくちゃ良かったです。あと良かったシーンはやっぱり礼さんの『Back』のシーン。あの人は本当になんでも出来ますね…。あのキレで踊りながらあれだけ歌う。そりゃあ演出家も頼っちゃうよという。天希ほまれさんもすごくカッコよかった。

 

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  瀬央さんがフィナーレで七海さんの前に降りてきていたのも印象的でした。いつの間にかそんなに番手が上がって…という親みたいな気持ちに。退団する華鳥さんのエトワールは圧巻でした。まだ続けて欲しかったなぁなんて思ってしまいます。そして七海さんの三番手羽根。泣いちゃうよ。ショー全体を通して七海さんのサヨナラという雰囲気があって。しっかり一章分ずっとセンターにいたり、どの場面でも目立つ立ち位置があてられていたりで、これだけやってもらったらファンは泣いちゃうよなぁ。泣きましたもん。あと、個人的に応援している小桜ほのかさんの番手が目に見えて下がっていたのが悲しい。やっぱりケガをするタイミングが悪かったかな…。

 

 この公演は、そんな感じでした。