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感想:宝塚歌劇団宙組『天は赤い河のほとり/シトラスの風―Sunrise―』

 先日、宝塚大劇場宙組公演『天は赤い河のほとり/シトラスの風―Sunrise―』を観劇してきました。まだまだ新参者ではあるものの私は宝塚歌劇団のファンで、なんというか、冷静に分析して客観的な批評を書くなんてことはできそうにないので宝塚関連の記事は全部「感想」のカテゴリに入れたいと思います。「宝塚はいいな~~」っていう気持ちをつらつらと書いていく感じになります。あしからず。

 

 まず一本目の『天は赤い河のほとり』は、篠原千絵先生原作の漫画を小柳奈穂子先生の脚本・演出で舞台化した作品。そしてなんといっても新トップコンビ真風涼帆・星風まどかの大劇場お披露目公演です。背が高く男らしいヴィジュアルながらおっとりした性格の真風さんと100期生という若さにかわいらしい顔立ちと確かな実力を備えた星風さんという、相性の良さそうなコンビですね。あと素敵な身長差。大事なところです。

 調べてみると原作は単行本で全28巻という大作で、読んだことはないのですが「どうやって1時間半に収めるのかなー」なんて思っていました。実際に観てみると、小柳先生の大胆な演出が光り、ひとつの作品、世界が巧く造り上げられていたように感じました。もちろん原作の熱心なファンの方には大なり小なりの不満点もあるとは思いますが。

 真風さんはヒッタイトの第三皇子カイル・ムルシリ役を持ち前の演技力で好演。皇族の気品、戦士としての覚悟、ユーリへの想いをあわせ持った人物を表現し、星組からの組替え以降成長を見せている歌唱力も発揮されていました。星風さんは、ユーリという役柄と自分自身の持つ若さや勢いといったものが相乗効果を発揮していたように思います。いきなりタイムスリップしてしまい命を狙われ、カイルに翻弄されながらも強く前へ進んで行くユーリを表現されていました。そして、前回の宙組公演『ウェストサイドストーリー』から組替えでいらっしゃった芹香斗亜さんはカイルとユーリの関係に横槍を入れるような役どころのウセル・ラムセス。まずカッコいい。星組配属から若くして花組へ組替えし長らく2番手を経験、次の花組主演男役かと思われていたところを二度目の組替えで宙組へ、という経歴の方ですが、まずカッコいい。今回はどこか軽薄に振舞いながらもエジプトの将来を確かに見据える野心をチラつかせる青年を好演されています。ヒッタイトを追われたユーリはラムセスに保護され、協力しながらも最終的にはカイルのもとへ帰るのですが、自分なら悩むな~なんて思ったり。ラムセス、カッコいいから。でもカイルもカッコいい。悩む。カイルがユーリを簡単そうにお姫様抱っこしたところなんかドキッとする。花組公演の『ハンナのお花屋さん』を観たときに、「あれ?キキちゃん(芹香さんの愛称です)こんなに歌上手かったっけ?」と思うくらい最近歌唱力が上がっていた芹香さんですが、今回も安定されていました。

 普段は男役をされている澄輝さやとさんがエジプトの王太后ネフェルティティ役をされてたのがとても印象的でした。前回の『神々の土地』では凛城きらさんと寿つかささんが女性の役をされていましたが、ベテランの男役さんが女性役を演じられていると、さまざま発見があって面白いなと思います。ザナンザ役の桜木みなとさんも、カイルの異母弟という役どころを爽やかに演じられていました。95期生のみなさんは今年で10年目ですが、各組で重要な役割を果たしている方が多い印象です。そして宙組きってのダンサー風馬翔さん。カイルの従者であるティトの父親タロス役で歌唱力を発揮されていました。自分の好きな方にしっかりしたセリフとソロがあると本当にうれしい。若手の中ではハディ役の天彩峰里さん、ティト役の愛海ひかるさんが存在感を示していらっしゃいました。天彩さんは星組からの組替えで、今回の公演が宙組デビューですね。前回の星組公演のショー『Bouquet de TAKARAZUKA』ではエトワールを務められ、圧倒的な歌唱力を存分に発揮されていました。今回の新人公演ではユーリを演じられる、これからが楽しみな娘役さんです。愛海さんは2014年に初舞台を踏まれた100期生。ティトという役柄は物語の中で非常に重要な存在でセリフが多く見せ場もあり、抜擢だなという印象です。これからの活躍を期待させられます。

 

 ショーの演目は『シトラスの風―Sunrise―』で、宙組が受け継いできた伝統のある作品です。

 まず第一章のプロローグでは緞帳が上がると組子さんたちが板付きで勢ぞろい。そして中央にゆりかちゃんが現れ、名曲「シトラスの風」を歌い始められます。私はもう帰りの電車の中で「眠る時代を呼び起こせ 眠る時代を呼び起こせ」というフレーズが頭の中から離れませんでした。TAKE A CHANCE~♪ GET A DREAM~♪ 合唱の後は真風さん、芹香さん、星条海斗さん、愛月ひかるさんで「夢・アモール」を。これまた名曲です。

 第二章では1900年代の舞台設定で、当時の服装に身を包んだ娘役さんたちが傘を持ってかわいらしく歌い、踊り始めます。一列に並んだセンターが星風さんなんですが、両隣の美風舞良さんと純矢ちとせさんを筆頭に実力派の娘役さんたちが脇を固めていらっしゃるので見応えがありました。やがて雨が降り出し、真風さんと星風さんのデュエットダンス。大コーラスの後に暗転、間奏を挟んで芹香さんがソロで歌いながら銀橋を渡り、第二章は終わり。

 第三章はダンスが中心の一場面で構成されていて、真風さんを中心に風馬さん、和希そらさんなど実力のある男役のダンサーが集められています。和希さんはバウホール公演が楽しみですね。バウのチケットって当たったことないんですけども。

 第四章はアマポーラ。まず星条さんが歌いながら銀橋を渡っていかれるんですが、星条さんのように長年舞台を支えられた方が退団公演でこのような場面をされているのを見ると胸に来るものがありますね。そして真風さんを中心に男役さんたちのダンス。歌手をずんちゃん(桜木みなとさんの愛称です)が引き継ぎ、今度は娘役さんたちのダンス。歌はトップコンビのデュエットになり、組子勢ぞろいでダンスをしてこの明るい章は終了です。

 第五章は打って変わってアダルトな雰囲気の場面になります。舞台は1860年シチリア。イタリアが統一された年ですね。社交界で真風さん星風さん芹香さんの三角関係という、ショーあるあるな場面ですが、星風さんの歌唱力に注目してください。びっくりします。私は劇場で「え、これ歌ってるのまどかちゃん!?」と思いオペラグラスで確かめてしまいました。失礼な話であるのですが、前回公演までの印象と全く違うレベルの歌をこの場面では披露されています。だてにこの若さでトップになられていませんね。

 さて第六章は100期生以下の組子さんによるロケットです。爽やかなラインダンスで劇場の雰囲気がまた別のものになりました。

 第七章は『シトラスの風』の代名詞とも言える「明日へのエナジー」です。まず真風さんが歌い、学ラン風の衣装に身を包んだダンサーたちが踊り始め、次第に歌い手と踊り手が加わってその輪が広がり始めます。ダンサーには先ほど言及した風馬さんや和希さんに加え、綾瀬あきなさんや結乃かなりさんなどの実力あるみなさんが選抜されています。そして美風さんを筆頭にした美しいコーラス。さすが「コーラスの宙組」と言わざるをえません。間奏の後にマギーさん(星条さんの愛称です)による「DRIFTER IN THE CITY」で、クライマックスともいえるこの章は終了です。この「明日へのエナジー」、個人的にめちゃくちゃ好きなんです。宝塚の特色とも言える、およそ80人という大勢の組子が一堂に会して全力で歌い、踊ることによって生まれる圧倒的なパワー。こんなに壮大で素晴らしいものはない。

  第八章は太陽やその炎がモチーフになった場面で、「Sunrise」が歌われます。そしてトップコンビによるデュエットダンスのあと、宝塚レビューの醍醐味である男役の群舞へと進んでいきます。大階段に白燕尾、ボレロのリズムでの群舞は印象的でした。

 そして最後の第九章はフィナーレのパレード。エトワールがまどかちゃんで、あらーせっかくのお披露目公演なのになーなんて思います。キキちゃん、まどかちゃん、ゆりかちゃん(真風さんの愛称です)の順番で羽を背負って下りてきて欲しかったなぁ。ただやっぱり、新しいトップスターさんが最後に大きな羽を背負って大階段を下りてくるところは胸にグッとくるものがありますね。

 非常に素敵なレビューでした。

 最後に、今回の公演では結乃かなりさん、朝央れんさん、潤奈すばるさんが退団されます。宝塚にサヨナラはつきものですが、寂しさが胸をよぎります。特に結乃さんは前回の『エリザベート』でマデレーネ役をされるほどにしっかりしたダンスをされる方だったので、名残惜しさはつきません。みなさん、本当にお疲れ様でした。